<ヤクルト1-4阪神>◇4日◇神宮

 失うモノはなかった。阪神鶴直人投手(27)は勇気を持って飛び込んでいった。2軍で磨いた右打者への内角シュートを、これでもか、と投げ続けた。額には2回から大粒の汗がにじんでいた。打者2巡目も攻め方は変わらない。「結果にこだわる」。言葉通りの“捨て身投法”だった。

 鶴

 シュート、ツーシームが決まっていた。開き直って、思い切って、甘くならないように投げるだけでした。練習してきたし、自信を持って投げられた。

 6回で105球。球数を要しながらも要所を締めた。3者凡退は1回だけでも、決定打は許さなかった。2回に1失点も、以降は走者をくぎ付けにした。6回を投げ5安打1失点。今季初先発を初勝利で飾った。

 鶴

 何とか粘って投げられたことはよかった。先頭の四球だったり反省点はある。次のチャンスをもらえたらしっかり準備したい。

 昨秋のキャンプから先発として調整し、春季キャンプ後半から中継ぎに再転向した。開幕直後の3月31日に2軍降格すると、先発に再々転向した。行ったり来たりでも気持ちは崩れなかった。大先輩のアドバイスが心にはあった。同じ境遇を経験していたのが安藤だった。オフに鶴は安藤を訪ねていた。愚直な質問をぶつけると先輩は優しかった。

 「どっちも出来るのは長所でもあるから。ありがたいこと。先発から中継ぎは出来るから、まずは先発」

 役割へのこだわりは捨てた。「切り替えは大丈夫」。2軍降格後も平気だった。再合流した鶴に安藤は「オレに回ってきたらもちろん全力で抑えるよ」と胸をたたいた。宣言通りの“師弟リレー”も決まった。チームへ、安藤へ。これ以上ない鶴の恩返し。今日5日にも出場選手登録を抹消されることが濃厚となったが、連敗を止めたヒーローは間違いなく鶴だった。【池本泰尚】