ボクシング世界3階級を制した前WBA世界フライ級王者の井岡一翔(28=井岡)が12月31日、横浜市内で記者会見し、現役引退を表明した。「ボクシングを始めたきっかけだった世界3階級制覇を達成したので」と理由を説明した。引退届は30日に日本ボクシングコミッション(JBC)に受理された。ただ、国内ジム所属選手最多タイ「世界戦14勝」を誇る男に体力面の問題はない。情熱を取り戻し現役復帰となれば、米国など海外進出が有力な選択肢になりそうだ。

 井岡が「引退」で沈黙を破った。

 「ボクシングを始めた時のきっかけだった3階級制覇を成し遂げることができたので、引退しようと決めました。満足しています。でも(15年12月31日に3階級制覇を決めたレベコとの)再戦で勝ってこそ王者と思っていたので…。5度目の防衛戦の前に(引退を)決めました」

 4月23日にノクノイを下し5度目の防衛。元WBA世界ライトフライ級王者具志堅用高の日本記録「世界戦14勝」に並んだ。翌24日の会見以来250日ぶりの公の場。この日は父の井岡一法会長(50)がおらず、1人きり。週刊誌などで父との確執が報じられたが「父、両親があって今の自分があると感謝しています」。引退も「気持ちを伝えて『分かった』と言ってもらった」とした。

 世界最速のデビュー18戦で世界3階級を制した。それが、引退の決め手だった。「おじさん(元世界2階級王者井岡弘樹氏)の時から3階級制覇が井岡家の夢。幼い頃から、それを途方もないことだと感じていた」という。復帰については「その思いがあれば、ここにはいません。ただ、ゼロとは言えない」。今後については「次のビジョンのイメージはある。応援してくださった方に、さらに期待を持ってもらえると確信しています」と話すにとどめた。

 衝撃の決断だが、井岡はまだ28歳。プロのキャリアは23試合で、高い防御技術で強烈なダメージもほとんど受けていない。体力的な問題はなく、達成感を経て、再び情熱を取り戻せば、再起は十分考えられる。

 その場合、舞台は海外が有力な選択肢になる。現時点で「(海外は)全く考えていない」と話したが、ライセンス再取得が必要な国内復帰に比べ、海外はプロモーターと契約、現地コミッションの承認を得れば活動できるため、障害は少ない。「世界3階級王者」の肩書も心強い。「唯一無二の王者になりたい」が口癖の男がラスベガス、アトランティックシティーなど“本場”を選んでも不思議はない。可能性を残し、名王者がグローブを置いた。