稀勢の里の休場は、とうとう1年間に至ってしまった。新横綱として臨んだ昨年春場所の奇跡の逆転優勝はファンの記憶に刻まれたとはいえ、終盤で負った左大胸筋のけがをいまだに引きずっている。

 どんなに状態が悪くても、ぎりぎりまで出場に固執するのが稀勢の里だ。だが不振で途中休場を余儀なくされた先場所6日目から間もない頃に「バランスが崩れたまま、ここまで来てしまった感じがする。時間をかけて、ゼロからやり直していかなければ。自分はまだ31歳。土俵人生はここからだ」と吐露。この時点で視線は春を通り越していたといえる。

 稀勢の里は次に出場する場所に進退を懸けるとし、大勝負は5月の夏場所が有力視される。

 現役時代に大胸筋を断裂した経験のある元幕内力士の親方は「筋肉が固まった状態になり、力が入りにくくなる。力士によっては致命傷になる厄介なけがだ」と日本出身横綱の復活に懸念を抱く。

 7場所連続全休の横綱貴乃花は長期離脱中に幕下力士と番数をひたすら重ね、手の指先から汗を滴らせるほどの猛稽古で一度は復活。対照的に稀勢の里は2月以降、すり足など下半身の鍛錬が中心で汗の量はさほど多くない。

 もう一度、全身をいじめ抜く覚悟で苦境に立ち向かえるか。信条の「努力の継続」が再起への鍵となる。