10月5日。都内にある高砂部屋の上がり座敷で、熱のこもった朝稽古を取材した。静寂の中に響き渡る四股やすり足の音は心地よく、頭同士が激しくぶつかる音が緊張感を高まらせる。ほんのりとにおう土俵の土やびん付け油の香り。稽古終盤にはちゃんこ場から香ばしいにおいが漂い、味を想像しているうちに空腹を刺激された。着用が義務づけられたフェースシールド越しからでも、五感を通じて多くの情報が入ってきた。実に約6カ月ぶりの稽古場取材は刺激的だった。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、取材環境は一変した。日本相撲協会は朝稽古取材を4月中旬から禁止にし、原則的に電話取材のみに。7月場所以降は、東の支度部屋前にある記者クラブは入室禁止となり、本場所開催中は国技館2階のレストラン「雷電」を臨時記者クラブとして使用。取組後の支度部屋での対面取材もできず、オンライン取材が続いた。

そんな中、9月の秋場所後にさまざまな制限を設けながらも朝稽古取材が解禁。高砂部屋に向かった。全体稽古が終わり、待ちに待った対面取材。上がり座敷に腰掛けた大関朝乃山を目の前に、自然と「体、大きくなりましたね」と問い掛けた。肉眼だからこそ分かる筋肉のハリや肌つやの良さ。パソコンの画面越しでは絶対に伝わらない、雰囲気の良さを感じた。

何とも素人っぽい問い掛けをしてしまったが、朝乃山はまんざらではない感じだった。聞くと、ともに生活している部屋の力士らからは体の変化に気付かれにくいという。「記者の方とか周りの方に言ってもらうのも大事。久しぶりに見てもらってよかったです」。記者からの反応も、仕上がり具合や体調を見極める指標の1つにしてきたという。半年ぶりの対面取材は、互いにとって有意義な時間となった。

取材環境や本場所開催の様式は徐々に戻りつつあるが、本来の状態には程遠い。だからこそ感じた、対面取材の貴重さだった。これまでの日常がいつか戻ると信じつつ、力士も記者も今与えられた環境下で最善を尽くしたい。【佐々木隆史】

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