相撲もそうですが「琴ノ若は強くなったな」と感じたのは取組前の表情からです。最後の塩を取って花道の方向を見る顔は、自信に満ちていました。私としては、どうしても現役時代に何度も戦ったお父さん(元関脇琴ノ若=現佐渡ケ嶽親方)と照らし合わせてしまうんですが、お父さんはそれほど気持ちが表情に出なかった人です。それが琴ノ若の顔からは「よしっ!」という闘志が感じ取れます。どちらが良い悪いでなく、不思議な感覚で見てしまいました。

相撲の方は、奇襲もある難しい相手の翔猿を、よく見て落ち着いて対処しました。二本差されても対応の仕方がうまい。ここまでの相撲でも、まわしを切るうまさなどを感じますが学生相撲から入った人は、クラブ活動の中で細かい指導を受けます。琴ノ若の場合も、学生時代(埼玉栄高)に磨いたものが、地力をつけたことで生かされていると思います。さらに先場所、千秋楽まで優勝の可能性を残した活躍で「自分にも出来るんだ」と自信をつけたことも大きい。優勝争いについては一番、楽なポジションにいますが御嶽海、若隆景と力の差があり、よほどのことがない限り可能性は低いと思います。今場所は経験を積めるチャンスだと思った方がいいでしょう。「えっ、琴ノ若って、おじいちゃんが横綱で、お父さんが関脇だったんだ」なんて言われる日も、そう遠くはないと思います。(元横綱若乃花 花田虎上・日刊スポーツ評論家)