関取衆最年長で西前頭3枚目の玉鷲(38=片男波)が、初土俵からの通算連続出場を、元関脇富士桜に並ぶ歴代2位の1543回に伸ばした。04年初場所の前相撲で初土俵を踏み、翌春場所で番付にしこ名が載ってから、20年目で歴代2位まで浮上した鉄人。この日は豊昇龍に押し出され、初日から5連敗となったが、持ち前の馬力で結び前の場内を沸かせた。歴代1位の元関脇青葉城の1630回までは、あと87回となった。

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1543回目の取組を、結び前に大関と取ったことが、衰え知らずの鉄人ぶりを象徴していた。玉鷲は立ち合いから押し込まれながらも「力は絶対、自分の方が上」と自負する通り、馬力で24歳の豊昇龍を土俵際まで押し返した。だが、のど輪で甘くなった懐に入られ、一気に押し出された。取組後は連続出場歴代2位を問われても「ピンとこない」と無関心。それよりも「自分に腹が立つ」と、目標の上位撃破が目前だっただけに悔しさが強かった。

鉄人ぶりとは裏腹に胸に秘めた思いがある。場所前にこぼしたことがあった。

玉鷲 「膝、首、背中。年を取って痛むところも多くなった。『いつ土俵で死んでもおかしくない』と思うようになった。だからといって、ビビって引いたり、逃げたりはしたくない。それは『玉鷲の相撲』じゃない。『1日1番』と言う力士が多いけど、俺はこの言葉は好きじゃない。明日なんてどうなるか分からない。『いつ土俵で死んでもいい』。そう思うようになってから、明日が来る前提の『1日1番』は嫌い。言いやすいから言っちゃうこともあるけど(笑い)」

初土俵以来の無休は「たまたま」と謙遜する。ただ、全力の押し相撲は常に大ケガとも背中合わせ。健康な体がなければ、土俵外の時間にも影響が出る。だからこそ「1秒でも2秒でも無駄にしたくない」という。可能な限り2人の息子と接するが、怒ることもある。「ママの言うことを聞かなかった時にね。あいつらにとってはお母さんだけど、オレの彼女だから。彼女を困らせるやつは怒るよ(笑い)。女性には優しくしないと」。土俵も全力で、夫としても父としても全力。自転車で子どもの送り迎えもすれば、地域の子どもの登校時間に黄色い旗を持って“見守り隊”までする。

昨年名古屋場所。部屋に新型コロナの感染者が出て、規定により13日目から3日間休場した。不可抗力で休場扱いにならず、連続出場記録は継続されたが、部屋宿舎での相撲のテレビ観戦は「初めてだから不思議な気持ちだった。あれはもう経験したくない」。連続出場歴代1位は青葉城の1630回。関取を守り続け、来年秋場所2日目に追いつき、そして追い越しても、全力で土俵に立ち続ける鉄人の姿が目に浮かぶ。【高田文太】

 

◆初土俵以来の通算連続出場記録(★は現役)

<1>1630=青葉城

<2>1543=富士桜、玉鷲(★)

<4>1456=貴闘力

<5>1425=高見山

<6>1367=大竜川

<7>1359=寺尾

<8>1316=豊ノ海

<9>1302=芳東(★)

<10>1297=飛騨乃花