将来の大関、横綱と期待され続けてきた男が、ついに潜在能力を開花させた。東前頭15枚目の琴勝峰(25=佐渡ケ嶽)が、新横綱大の里を破って初金星を挙げた。真っ向勝負から上手投げ。最後は土俵下で天を仰がせた。前頭安青錦と並ぶ2敗で、優勝争いのトップを堅守。大の里を4敗に引きずり降ろし、事実上、新横綱優勝を消滅させた。優勝は1差3敗の熱海富士と草野を含め、全員が平幕、誰が勝っても初優勝の4人に絞られた格好となった。
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無意識に、それが生命線だと分かっていた。琴勝峰は、立ち合いから小細工なし。相四つの大の里に体当たりし、ともに右を差し合った。ただ上手を引いたのは琴勝峰。192センチの大の里に圧力をかけられても、琴勝峰も190センチとサイズでは負けていない。最後まで離さなかった生命線の左上手で、土俵下に投げ飛ばした。昭和以降の新横綱で単独ワースト、4個目金星配給の屈辱を味わわせた。
「うれしかった。上手をつかんで起こして、どんどん行こうと。立ち合いの後は何も考えずにいった」。無我夢中だった取組中とは対照的に、冷静に振り返った。右を差せば無敵だったはずの大の里にとっては、得意の形で敗れる珍しい完敗。大の里を十両時代にも本割と優勝決定戦で破っており、通算の対戦成績は3勝2敗となった。「今日はいい気持ちで臨めた。せっかくのチャンスなので張り切っていった」。照ノ富士戦以来、2度目の横綱戦で得た初金星をかみしめた。
師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)の期待は、埼玉栄高から入門した当初から高かった。同親方は「もともと大関、横綱の器だと思っていた。琴桜と2人、東西の横綱に張らせたいというのが私の気持ち」。事実、けがなどで転落しても十両は3度優勝。23年初場所では大関貴景勝(当時、現湊川親方)と、平幕では異例となる千秋楽の結びの一番に抜てきされ、相星決戦に臨んだ。結果は敗れたが、当時の経験を「生かしている」と、程よい緊張感で臨めていると明かした。
2年半前に優勝争いした場所前と同じ、体幹を鍛えるトレーニングを、今場所前に復活させていた。25キロほどの重りを持っての、すり足。慢性的に痛めていた足首の状態が良くなり、再導入できるようになっていた。天性のサイズとパワーに、体幹の強さまで備われば、大関、横綱候補が本来の力を発揮するのも当然。「1日1日、必死。充実感より必死にやっている」。幕内屈指の寡黙な男が、1度は逃した賜杯を、再び見据えている。【高田文太】

