AKB48の14期生だった内山奈月(27)は現在、大手広告会社でコピーライターやアクティベーションプラナーとして、さまざまな企画の制作に従事している。アイドル時代は非選抜ながらも特技や個性をいかし、「憲法アイドル」として著書も出版。今も、アイドル時代に自然と培った精神で、誰かの「おもしろい」を追求している。(文中敬称略)【大友陽平】

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今、広告業界にいるからこそ、より実感することがある。

「(13年8月に発表された峯岸)チーム4の結成の時に見開きの新聞広告が出たり、選抜総選挙の時も、全メンバー紹介企画もありましたよね? 当時はよく分かっていなかったんですけど、秋元(康)先生の考えられることや、仕掛けはすごい! という話によくなるんです」

もともとアイドルに興味がなかった少女も、社会現象になっていたAKB48に自然と魅せられていた。

「いろいろやっているAKB48がおもしろくて。『ぷっちょ』(※1)とか『野菜シスターズ』(※2)とか『江口愛実』(※3)とか…。おもしろくて、どんどん好きになっていきました。じゃんけん大会で選抜を決めて、それがCDになっちゃうのもすごいなと」

12年5月、高校2年生の時に、AKB48の14期生オーディションに合格し、グループに加入。同期には加入まもなく「三銃士」と呼ばれた岡田奈々、小嶋真子、西野未姫といった面々がいた。歌もダンスも未経験。学業と両立して活動をする中で、大人数のメンバーがいるグループでは、自己プロデュースも求められた。

「同期から三銃士が出てきたぞ、選抜に選ばれたぞみたいになった時に初めて、『自分はどうしたらいいんだろう?』ってすごく考えるようになりました。負けないように自分も覚悟を決めてやらなきゃ! って。いろいろな先輩と出会って、いろいろな輝き方があるんだなっていうのを見て、そこで自分がまねできそうなことを全部取り入れてみました」

特技は「憲法の暗唱」。幼少期から母に「美しい文章に触れなさい」と教えられ、「奥の細道」「方丈記」などを覚えていた。小学生時代に憲法について学んだとき「とにかくブツブツ言葉にして覚えていた」という。

「最初は峯岸(みなみ)さんに、(13年の東京・日本武道館で開催の)研究生コンサートの時に『これができます!』って言ったら『おもしろいね』って言ってもらって。本番で憲法の暗唱を披露したら、今度は秋元先生がおもしろいって言ってくださったんです」

14年に著書「憲法主義 条文には書かれていない本質」を発売できたことは、活動の中でも最も印象に残っていることだ。

「総選挙とかシングル選抜に入るということが指標の1つになることもあると思うんですけど、それだけじゃない個性を持っていることが、将来きっと役に立つよというのは、今頑張っているメンバーにも感じてもらえたらと、すごく思っています」

大学2年生だった16年にグループを卒業。一時学生キャスターのバイトなども経験したが、芸能界は引退。就活をする中で「そもそも学生の頃は文化祭とかが好きだったし、AKB48での活動でも、例えば握手会のレーンの飾り付けをしてみたり、コンセプトを作ったり、企画っぽいことをやるのが好きだったということに気付いて」、大手広告会社に就職した。

「入社した時からクリエーティブ志望で、コピーライター職に配属してもらいました。広告会社はテレビCMを考える人もいれば、プロモーションを考える人など、いろいろな職種があるのですが、私はコピーライターは理想を追いかけられる仕事と感じて。これをやるべきだと思ったことを実現していける仕事でもあります」

今思うと、アイドル時代に自然と身に付いていたことがあった。

「目立ってやろう精神みたいな部分は、今に結構いきていると思います! 企画を出す時も、周りとは違う案を持っていこうとか…。『やったもん勝ち! 失敗したらしたらでその時だ!』みたいな(笑い)。攻めの姿勢や、精神的な部分はAKB48で教わったことが多いと思います」

「アクティベーションプラナー」としての顔も持つ。

「企画をつくる仕事です。アイドルの時は、握手会や劇場公演と、自分が直接会える範囲で、さらにお金を払ってもらった状態で喜ばせることしかできなかったんですけど、広告の仕事は、私が作ったものに出会ってくれた人全員の気持ちを動かせるかもしれないですし、自分がいなくなっても残り続けるかもしれません。誰かをハッピーにしたいという思いはアイドル時代と変わらないんですけど、そういう自分のポリシーを表現できる幅が広がっていると感じられて、それもやりがいです」

アイドル時代も、SNSなどの発信を含めてファンを元気にしてきた。今後の目標は何か。

「世の中が楽しんでくれることを、とにかくたくさんやってみたいという思いがどんどん大きくなっていて、巻き込まれる人が大きくなっていったらと思っています。夢はそれこそ『江口愛実』を作ること。一緒におもしろいことをやりましょうって思ってもらえるような人になっていきたいと思います。そこに自分の大好きなAKB48もそうですし、今まで出会ったいろいろな人を巻き込めたらもっといいなと思います。その輪を広げていきたいなというのが夢ですね」

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◆内山奈月(うちやま・なつき) 1995年(平7)9月25日、神奈川県生まれ。12年5月にAKB48の14期生オーディションに合格。同7月に劇場デビュー。14年4月、慶大経済学部入学。同年7月14日に初著書「憲法主義 条文には書かれていない本質」(南野森氏と共著)を出版。選抜総選挙は第5回(13年)から圏外→63→39位。16年2月、グループを卒業。学生キャスターなどをへて、大学卒業後の18年4月から現職。血液型A。

※1…「ぷっちょ」 UHA味覚糖のソフトキャンディで、10年からAKB48がCMキャラクターを務めた。メンバーが「AKB48ちょ!」というキャラクターとなり、商品についたキャラクターストラップを集めるファンが多かった。放送されたCMも話題を呼んだ。

※2…「野菜シスターズ」 10年からカゴメ「野菜一日これ一本」のCM企画として結成された限定ユニット。前田敦子=トマト、高橋みなみ=キャベツなど野菜に扮(ふん)した。「野菜シスターズ」「野菜占い」といった楽曲も誕生した。

※3…「江口愛実(えぐち・あいみ)」 11年に江崎グリコ「アイスの実」のCMに登場したCGキャラクター。当初は「週刊プレイボーイ」のグラビアで「新メンバー」として紹介される仕掛けで、のちに前田敦子や大島優子らメンバー6人の顔の一部を集めて作られたキャラクターであることが明かされた。江口の声を吹き込んだ佐々木優佳里が、コンサートで本人に扮(ふん)して登場しCM曲「アイスのくちづけ」を披露したことも。