学生時代にマイルス・デイビスやジョン・コルトレーンを聴くようになったのは、新聞や雑誌で見かけた植草甚一さんのコラムがきっかけだったと思う。
映画から音楽、ミステリーまで幅広く論評していた植草さんは、米国の「ジャズマガジン」に載った「秘話」を軽妙な筆運びで伝えてくれた。
例えば、短気なマイルスが喉の治療中に激高して声をつぶしてしまったエピソードをよく覚えている。背景を知れば、彼のアルバムで時折聞こえる「OK」のだみ声の聞こえ方が違ってきた。ライブ盤の不思議な「間」の背景を知り、ライブハウスの光景を頭に浮かべた。文字で目にした逸話の数々は「レコード観賞のお供」として最適だった。
純粋に「音」を聴け、という人もいるだろうが、「聴き分ける」自信がない身にとっては、そんな裏情報でジャズへの興味がわき、聴く楽しみが膨らんだ。
異色のコミック「BLUE GIANT」(石塚真一作)は、ジャズに魅了され、テナーサックスを始めた仙台出身の青年を主人公に「日本のジャズシーン」を活写している。「音が聴こえてくる漫画」と言われ、コミックスの累計部数は900万部を超えている。こちらも音のない2次元世界から植草コラム同様にジャズの魅力を伝えている。
そのアニメ映画化(立川譲監督)が17日から公開される。
映画は主人公の大(声・山田裕貴)が高校卒業と同時に「世界一のジャズプレーヤー」を目指して上京するところから始まる。高速バスでイヤホンをした大が聴くのはコルトレーンの「インプレッションズ」。独学でサックスの腕を磨いた情熱の青年が目指す、熱く自由な演奏の方向性が何となく見えてくる。
高校の同級生、玉田(声・岡山天音)のアパートに転がり込んだ大は、たまたま訪れたライブハウスで、同世代ながらプロ級の演奏をするピアニスト雪祈(声・間宮祥太朗)と出会う。
曲折の末、互いを認め合うようになった大と雪祈に、大学のサークル活動に嫌気が差していた玉田がドラムで加わり、ジャズトリオ「JASS」が誕生する。
雪祈というパートナーを得て、ますます熱くなる大。大の熱気に押されて技術先行の雪祈も「殻」を破っていく。「素人」の玉田は、意外にもそのひた向きさが玄人筋の好感を得る。そんな3人は「10代で日本最高のジャズクラブSo Blueに立つ」という目標を達成できるのか…。
声を担当した俳優陣の思いも熱い。「原作でも映画の台本でもアフレコでも涙するわけです」と山田は明かす。声からは大の渾身(こんしん)の感じが伝わってくる。
「ジャズの熱が人に波状していく様、そういったエネルギーに圧倒される映画になるのでは…」と語った間宮は、雪祈の突き詰めるところ、そしてデリケートなところを巧みに表現している。
「3人の男たちの大青春映画です」という岡山は、そんな2人をしっかり受け止めている。3人のキャラが生き生きしているから、「音」を表現する時にシュールな映像にもついて行けた気がする。
音楽を担当、自らピアノも弾いた上原ひろみ、サックス馬場智章、ドラム石若駿と演奏も一線級がそろった。原作・石塚氏、立川監督の「熱」にスタッフ、キャストが応え、コミックで想像していた「大音響」が再現されている。体調を整えての観賞をお薦めする。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)




