作家の伊集院静さんが亡くなった。73歳だった。伊集院さんが週刊誌に連載していた人気コラムをまとめた本が出版される度に、定宿だった山の上ホテルで話を聞いた。

人気作家だけに最初こそ緊張したけれど、どんなことを聞いても快く答えてくれる懐の深さと、いつも笑みを絶やさない人としての魅力に、その後は取材することが楽しみになった。若いころから女性にもてたのも分かる気がした。

伊集院さんに何度か会ううちに、ある人のことを思い出した。「熱海殺人事件」という昭和の演劇史に残る舞台を上演し、「蒲田行進曲」で直木賞を受賞したつかこうへいさんだった。つかさんは稽古では厳しい演出家だったが、普段は細かな気遣いをみせる人だった。

伊集院さんは山口、つかさんは福岡と、隣り合わせた県の出身だが、2人に共通するのは在日韓国人2世ということだった。つかさんはエッセー「娘に語る祖国」で在日2世として育った自らの生い立ちを語り、伊集院さんも自伝的小説「お父やんとオジさん」で13歳の時に韓国から日本に渡り、海運業で成功する父の姿を描いている。どちらにも、自身が受けた差別について多くは触れていないけれど、何らかの差別を体験してきただろうことは容易に想像できます。そんなつらい経験があったから、私が接した2人は誰にも優しく、温かい人だったのではないでしょうか。

つかさんが再婚した時の結婚式に出席したけれど、その時、新婦は着物、ウエディングドレス、そして韓国の礼服であるチマ・チョゴリにお色直しをした。伊集院さんが女優の夏目雅子さんと再婚した時、夏目さんは取材に対して「相手は趙(伊集院さんの本名)という名前の方。私はチマ・チョゴリを着てお嫁さんになります」と話していた。その翌年に最初で最後となった舞台出演中に白血病で倒れ、27歳の若さで亡くなった。

伊集院さん、つかさんの作品は多くの人に読まれ、見られましたが、それと同じくらい人として愛された作家だったように思います。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)

つかこうへいさん(2007年撮影)
つかこうへいさん(2007年撮影)