中村時蔵
中村時蔵

東京・隼町にある国立劇場が昨年10月末に閉館してから4カ月が経過しました。実は昨年4月から国立劇場の隣にある事務所に非常勤で週2日ほど通勤していて、その度に国立劇場の前を通っています。

本来なら、劇場の解体工事の準備が始まり、事務所も移転するはずでしたが、新しい国立劇場や演芸場のほかにホテルやレストランも入る複合施設建設の入札が2度にわたり不調となり、解体も移転も進まない状態が続いています。入札が成立していれば、新しい国立劇場の再開場は29年秋の予定でしたが、大幅に遅れることは必至のようです。

そんな事態に危機感を抱いたのが、国立劇場の舞台に立っていた伝統芸能の実演家の人たちです。1月中旬に日本記者クラブで歌舞伎の中村時蔵さん、人間国宝でもある日本舞踊の井上八千代さん、文楽の吉田玉男さんなど10人の実演家が会見を行いました。

時蔵さんは「2度にわたる入札がうまくいかなったことは由々しき問題と考えています。1日も早く建て替えの目安が立ってほしい」と訴えました。八千代さんも「文化施策が後回しになっていいのかということも考えていただきたい。後回しにされるほどの小さな問題ではない。空白期間が大きいことの恥ずかしさを知っていただきたい」と主張しました。

国立劇場の3度目の入札の時期は未定です。一部には数百億円もの巨額の費用がかかる建て替えではなく、より費用が少なくて済む改修案の検討を望む声も上がっています。

ちなみに、公演は行っていませんが、今も劇場内では事務系の多数の職員が働いており、私も劇場内にある会議室に何度か行きました。ただ、会見では、「劇場の前を通ったけれど、庭も荒れていて、廃虚感が漂っている」との指摘がありました。やはり、公演を行わない劇場には、松尾芭蕉の言葉を借りれば、「つわものどもが夢の跡」的な侘しさがあります。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)

国立劇場(2004年撮影)
国立劇場(2004年撮影)