ゴクミの愛称で美少女ブームを巻き起こした後藤久美子(49)が30年ぶりにドラマ主演した。来年正月放送のテレビ朝日系「顔」。10代の頃には大人たちをタジタジにした舌鋒(ぜっぽう)も3児の子育てを経て丸くなった。事実婚27年のパートナー、元F1レーサーのジャン・アレジ(59)への思いも初めて明かした。【相原斎】

★今回は台本通り

スリムな体形がそのままなこともあって、少女時代の面影が驚くほど残っている。1カ月間のドラマ収録終了直後に話を聞いた。

「難しいシーンが続くと、体力的なこともあってやっぱり疲れました(笑い)。でも、楽しかった。現場の雰囲気は30年前そのままでした」

セリフ覚えが抜群で、10代の頃から自分なりにアレンジすることも少なくなかった。一字一句にこだわる倉本聰氏(83)の脚本にも「私はこういう言い方はしない」と言い換え、厳しく注意されたこともあった。

「いえ、もう。今回は台本に書かれた通りに、と思って。ハイ(笑い)」

ダブル主演の武井咲(29)はちょうど20歳下で、所属事務所オスカープロの後輩だ。12年前にはデビュー間もない17歳の武井と対面する機会があった。その年の頃には後藤はデビュー5年。「ゴクミ語録」(坂本龍一プロデュース)も出版され、「ノロマな大人は大キライ!」などの発言で、周囲の大人をタジタジにした。

「17歳の時に会った咲ちゃんはキラキラしてて、すてきなお嬢さんでした。同い年の頃の私はドスコイ! って感じでしたから」

「顔」は松本清張の同名小説を脚本家の浅野妙子氏が現代版に仕立て直した。暗い過去を隠して活躍する覆面アーティストを武井が、後藤はその過去を知る人権派弁護士を演じている。

「父が松本清張大好きなんで、喜んでます。最近『オクミは仕事しないのか?』って聞いてきて。『デビューの頃は反対してたのに、なんで? パパ私に仕事して欲しいの?』と返すと『仕事はしないよりしている方がいい』と。親孝行にもなったようなんです」

★オスカー大喜び

共演の武井は「後藤さんのドラマ復帰が決まった時は、会社中がお祭り騒ぎのようでした」と明かす。米倉涼子、剛力彩芽ら大物の退社独立が続いていただけに無理もない。

「私はオスカー所属歴40年なんですけど、たまに会社に遊びにいって会長、社長にお会いしても、子育ての話とかばかりで、『幽霊会員』の日々が長かったですからね。喜んでくださる人がいるならば、もっと早くに時間をつくって仕事をしていても良かったな、と思いましたね。時間はつくろうと思えばできるんですけど、いざとなると(子育てや家事の合間で)オーガナイズ(調整)するのがけっこうたいへんで、なかなか踏ん切りがつかなかった」

★子育てで挫折感

オスカーの「看板」としてこれからという21歳の時にF1レーサー、アレジとの交際が始まり、翌年渡仏して同居生活を始めた。順風だったタレント人生はやがて子育てにもまれた。

「挫折感はしょっちゅうありました。幼い頃は意思の疎通をはかろうとしても、ままならない。いろいろな方法を試してもうまくいかない。そのへんのこつが分かってきたのは3人目ですかね。30年はあっという間。えーっ、自分でいうのも何ですが、子育てをしてたいへん成長できたと思っています。子どもたちには『怒ったときはひと息ついて、それから言動に移すこと』と言っています。怒りにかまけた行動は決していい結果を生みませんから」

6歳上の姉が何度も街頭でスカウトされるのを目の当たりにし、「私だって」と自らの意志で女優デビューしたのは12歳の時。子育てにもまれてもその気持ちが消えることはなかった。

「『専業主婦』の間も、映画を見て、こんな作品私もやってみたい、と思うことは多かったですね。長年お世話になっている(オスカーの)会長、社長から『仕事しよう』と言われたら、それはやりますよ」

★「寅さん」例外的

4年前にはシリーズ5作を共にした山田洋次監督(92)のラブコールに応え、記念映画「男はつらいよ お帰り 寅さん」に「これだけは」と例外的に出演したこともあった。実は義理堅いところがある。

「山田監督からの長いお手紙で、新作への情熱をひしひしと感じたんです。読み終える頃には引き受けるか否かを私が考える権利すらないような気がして」

3人の子どもも成長した。長女エレナ(27)はモデルに、長男ジュリアーノ(24)は父と同じカーレーサーに、そして次男も15歳になった。渡仏からスイス・ジュネーブに居を構えて20年余りになる。

「(長女の)義務教育が始まる頃から。何より環境がいい。住みやすいです」

アレジが話すフランス語とイタリア語、子どもたちの学校での英語、そして日本語と家庭内では多言語が飛び交う。長男は「母は僕らが日本語を話すことにこだわった」と明かす。

「半分日本人ですからねえ。話せて当然と。でも、日本語って他とまったく違う言語なんで、いくら母親がしゃべっても無理なんですよ。きちんと学ばないと。長男には日本でレースを続けたかったら、語学学校行きなさいと言ってるんですけど、運動しに行っちゃうかな、お勉強するより」

後藤の1日は「冷蔵庫の中身の確認から始まる」という。長男は「母の料理で一番好きなのはめんたいこパスタ」と明かした。

「あんなの誰でも作れますよ(笑い)。基本、私しか食事を作る人がいなかったんですけど。最近は長女も長男もお料理できるようになったから、分担して作ることもありますね」

★唐揚げ、家族好物

得意な料理は?

「単純に私がしょうゆ味のお料理が好きで、それを作ることが多いです。鶏の唐揚げとか作ると、揚げるそばからどんどんなくなっていく。あれはみんな好きですよね。『ハイ! 食卓について』って言う頃にはほとんどなくなっています(笑い)。何か他のもの作らなきゃってなります」

そもそも家族の始まりとなったアレジとの出会い。どこに引かれたのだろう。

「そんなこと聞かれたことなかったですねえ。う~ん。まったくそういうつもりはなかったんですけど、レースを見て、ああいうレースをする人がこんなにちんまりとおだやかな時もあるんだという、そういうギャップがすてきだなと思いましたね。でも、最近はおだやかな様子を見せる時ってあんまりありませんね。きっとそういうお年頃なんでしょうね(笑い)」

▼武井咲

17年前、後藤さんのポスターを見て(国民的美少女の)オーディションを頑張ったこともあり、ご一緒できた時間はあまりにも貴重で、日々かみしめながら現場を過ごしました。普段もりんとしたたたずまいで1つ1つの所作が美しい。自分の芯をしっかりと持って貫く格好良さを感じます。私はまだ子どもが小さいので、これからの子育てについても、ずいぶん相談させていただきました。母として、役者としてリスペクトの気持ちでいっぱいです。

◆後藤久美子(ごとう・くみこ)

1974年(昭49)3月26日、東京都生まれ。商社経営の父、母、姉、兄がいる。84年、オスカープロのオーディションで4万8000人の中から選ばれる。86年「テレビの国のアリス」(NHK)でデビュー、87年大河ドラマ「独眼竜政宗」の愛姫役で注目され「国民的美少女」と呼ばれるようになる。愛称のゴクミは同年の流行語大賞銅賞。「男はつらいよ」シリーズでは最多の5回マドンナを務める。元F1レーサーのアレジとはフランスの広大なワイン農園も経営。パリ、モナコ、ロサンゼルスなどにも邸宅がある。

◆「顔」

松本清張が1956年(昭31)に発表した同名小説を脚本家の浅野妙子が現代版に脚色。「殺人犯」の過去を隠し、覆面アーティストとして活動する女性(武井咲)が、唯一の目撃者である人権派弁護士(後藤久美子)と再会して…。24年1月3日午後9時からテレビ朝日系で放送。