トップ珠城りょうの2人目の相手娘役に迎えられ2年半。月組トップ娘役の美園さくらは、サヨナラ公演「桜嵐記(おうらんき)」「Dream Chaser」で、新境地に臨んでいる。頭の回転の速さゆえ、役柄も「瞬間的に」とらえて作るタイプだが、南北朝時代を舞台に敵討ちを期す娘を演じる今作は「ゆっくり」役をとらえようと努めてきた。エトワールも務め、最後まで追求し続ける。兵庫・宝塚大劇場は6月21日まで、東京宝塚劇場は7月10日~8月15日の予定。

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就任から本拠地4作目での退団。「退団公演だからではなくて、毎回(必死)なんですけど…」と笑う。芝居は南北朝時代が舞台。親兄弟を北朝に殺され、敵討ちを誓う娘にふんする。

「(北朝を)たいへん恨んでいて、復讐(ふくしゅう)心だけが心の支え。今まで演じたことがなく、1度やってみたいと思っていた陰のある役。最後に出合えてすごくうれしい」

明確な答えが出る数学が好きで、自らを「数学的体質」と語っていた。その美園は、今回の役柄を「ドール的な存在」ととらえる。

「ちょっと人形っぽいというか、心がどこか壊れているような面があるなと」

演出の上田久美子氏が、美園の魅力を「硬質な部分」と語ったのを聞いた。

「自分の中で温めていたところがあり…。はっきりとした部分を表現したい-と、心掛けてきましたから、お客様に硬い印象を抱いていただくのは、自分にとって理想的でもありました。自分の硬さを役に投影したら、私の理想とする役柄に近づけるかな、と」

無機質、硬質なさまはある種、機械にも通じる。

「南北朝時代の姫ですし、そこまでやると離れすぎてしまうかと思いますが。極端なAIの世界のような感覚を一瞬でも出せたら、『陰がある人間』を瞬発的に理解していただけるかなとも思います」

ヒロインは主人公らと出会い、少しずつ柔らかくなる。「新たな美園さくらとしても、硬質さだけではなく、柔らかい部分も表現できたらと思っています」。上田氏から新境地へ進むヒントも。「対象捕獲能力が高すぎる」と言われた。

「瞬時に『こうしなきゃ』と(判断する)。だから、現代的なお芝居を得意とするだろうけど、今作は真逆。憂いをもって、ゆっくり時が流れていく感覚を楽しむように-と。まったく私の中でなかった部分なので難しい」

トップ珠城が宮本武蔵にふんした、自身の本拠お披露目も和物。最後も和物で締める。

「和物で始まって和物で終わる-まさかの展開(笑い)。上田先生に『金髪の海外の女優さんにしか見えない』と言われまして、お披露目の時も(演出家に)『それじゃ、外国人だよ』と…。成長できているのか-とも思いますが、飲み込みの速さは速くなっているように思います(笑い)」

コンビの退団公演にあたり、トップ珠城から「最後まで月組の一員として、組を盛り上げていこう」と言われ、「最後の日まで、月組の一員として駆け抜けたい」と答えたという。

ショーはデュエットダンスもあり、終盤にかけて“卒業ムード”が高まる。就任前の「エリザベート」以来のエトワールも務める。

「(前回は)すっごく緊張していたので、今度は少し肩の力を抜いて、エトワールとしての役割を果たせるように、心して挑もうと思っていました」

ここまで与えられた役、作品、立場を「運命」と受け止めて歩んできた。次期トップ娘役に決まった海乃美月は、2年先輩。下級生時代から世話になり、プライベートでも仲良し。今公演の稽古前、ゆっくり話す機会を持てたという。

「下級生時代から、たくさんアドバイスをいただいていた。何でもできる方ですが、私の個性を尊重してくださり、的確なアドバイスをくださる。新人公演で(海乃の役を演じた際に)もそばで(話を)聞いてくださった」

高い人間力、真摯(しんし)に芸事を追求する姿勢が大好きだという。

「娘役に対してのプライド、娘役芸をしっかりと持ってらっしゃる。なるべくして(トップ娘役に)なられる方です。海乃さんにバトンを渡すまで、月組を衰退させてはいけない。より娘役を盛り上げていければと思っています」

敬愛する先輩へバトンを渡すまで、全力で娘役道を進む。【村上久美子】

<ショーよ、初めまして>

通常より早い退団発表も「ありがたかった」。明らかにすることで「退団」への意識を強めて、稽古に取り組めると感じた。ただ、コロナ禍で日程が約半年延期され「若干(退団への意識が)薄れたかも」と笑う。発表から最後の舞台まで1年以上が過ぎ、99年の首席入団は久々のショーにも力が入る。「振り返ってみたら、(就任後は)宝塚らしいショーはあまりなく『ショーよ、初めまして』な気分です」と肩の力を抜いて臨んでいる。

◆ロマン・トラジック「桜嵐記(おうらんき)」(作・演出=上田久美子) 舞台は南北朝の動乱期。父の遺志を継ぎ、弟正時(鳳月杏)、正儀(月城かなと)とともに、南朝のために戦う楠木正行(珠城りょう)は、吉野の山中へ逃れ滅亡を覚悟する。その最中、報復を誓う後村上天皇の侍女、弁内侍(美園さくら)とつかの間の恋を得る。

◆スーパー・ファンタジー「Dream Chaser」(作・演出=中村暁) 夢を追う“ひたむきな情熱”がテーマ。珠城が描く「夢」を詰め込む。

☆美園さくら 6月17日、東京都生まれ。13年3月に首席入団し、組まわりを経て月組配属。声楽家を母に持ち、高い歌唱力で注目。15年「1789」で新人公演初ヒロイン。16年「FALSTAFF」で宝塚バウホール初ヒロイン。18年6月「雨に唄えば」で東上初ヒロインを経験し、同11月に珠城の2代目相手娘役に迎えられ、19年3月「夢現無双」で本拠お披露目。身長164センチ。愛称「さくら」「さくちゃん」。

和物芝居から一転、華やかなショーに臨んだ珠城りょう(右)と美園さくら(撮影・清水貴仁)
和物芝居から一転、華やかなショーに臨んだ珠城りょう(右)と美園さくら(撮影・清水貴仁)