10月期の秋ドラマが出そろった。豪華キャストで話題を集めた「VIVANT」(TBS)同様、今期もトリプル主演、クアトロ主演など、多人数主演で豪華さを競う作品が目立つ。ラブコメ、事件、不倫、パリピなど、ジャンルは多彩だ。勝手にドラマ評56弾。今回も単なるドラマおたくの立場からあれこれ言い、★をつけてみた(シリーズもの、深夜枠は除く)。

  ◇  ◇  ◇

◆「ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~」(フジテレビ系、月曜9時)二宮和也/中谷美紀/大沢たかお

★★☆☆☆

クリスマスイブの1日の出来事を3カ月かけて描く試み。二宮和也の「逃亡編」、中谷美紀の「地方テレビ局編」、大沢たかおの「レストラン編」が脈絡なくパラレル編集され、多すぎる場面、多すぎる登場人物が10秒単位でカチャカチャ行き来して、何の話かさっぱり。24時間の出来事を描く「24」が面白かったのは、大統領を守るという本線が明快だったから。接点不明のまま3地点のから騒ぎがループするのは連ドラとしてしんどく、主演3人の持ち味も引き出しにくい。クリスマスの2時間スペシャルあたりで、ちょっとした接点で結ばれた3つのオムニバスとして見てみたかった。

月10ドラマ「トクメイ!警視庁特別会計係」(C)フジテレビ
月10ドラマ「トクメイ!警視庁特別会計係」(C)フジテレビ

◆「トクメイ!警視庁特別会計係」(フジテレビ系、月曜10時)橋本環奈/沢村一樹

★★★★☆

警察の経費削減のためやってきた経理ヒロインの活躍。「経費」から見えてくるお仕事の本質という切り口は「これは経費で落ちません!」(NHK、19年)の警察版という感じ。“たかが1円”から殺害現場を特定、張り込み部屋の領収書からひと波乱、会計書類から分かる捜査状況。お金にフォーカスした警察ドラマがきちんとあるのは好感。Z世代女子VS頑固な中年刑事というベタな対立を橋本環奈、沢村一樹が手堅くやっていて、「刑事の勘」と「経費削減」がすっきり折り合う着地も後味がいい。全体的に一押し足りない気もするが、月9の後にこの分かりやすさはありがたいので4。

火曜ドラマ「マイ・セカンド・アオハル」(C)TBS
火曜ドラマ「マイ・セカンド・アオハル」(C)TBS

◆「マイ・セカンド・アオハル」(TBS系、火曜10時)広瀬アリス/道枝駿佑

★★★☆☆

30歳のどん底OLが、大学生になって第2の青春。おしゃれシェアハウス生活、「アオハル」とわざわざ訓読みする自意識など“苦手な人お断り”の明快なパッケージ。個人的には脱落ですが、恋愛リアリティーショー好きには久々の快作かも。おばちゃん丸出しキャラを広瀬アリスがフルスイングで演じ、年下とのキャンパスラブ、昔好きだったイケおじとの再会などラブ要素の確変状態。道枝駿佑に年下男子、ツンデレ男子、帰国子女設定など少女漫画要素を全部乗せ。「このまま消化試合みたいな人生送るつもり?」。何歳だろうと、人生の輝きは自分次第。言いたいことに焦点が合っている脚本なので、好きな人はぜひ。

火ドラ★イレブン「時をかけるな、恋人たち」(C)フジテレビ
火ドラ★イレブン「時をかけるな、恋人たち」(C)フジテレビ

◆「時をかけるな、恋人たち」(フジテレビ系、火曜11時)吉岡里帆/永山瑛太

★★★★★

タイムパトロール隊として23世紀から来た未来人、翔(永山瑛太)と、現代OL、廻(吉岡里帆)のSFラブコメディー。違法トラベラーたちの魅力的な物語が30分1話完結でカラフルに描かれ、「記憶を消して未来へ強制送還」という規則をハッピーエンドに変える廻のウルトラCがすてき。ウルトラ警備隊みたいな昭和レトロな基地、バッドトラベラーを手助けする「時空賊」の遊び心、エンディングの美しい後日談など、B級コメディーの世界観にSFの魅力がぎっしり。メイン2人も時空を超えた切ないきずながあり、覚えていない吉岡里帆と、チャラキモいいちずさで追い回す瑛太の掛け合いも最高。2人の結末が今から気になる。

水曜ドラマ「コタツがない家」(C)NTV
水曜ドラマ「コタツがない家」(C)NTV

◆「コタツがない家」(日本テレビ系、水曜10時)小池栄子/吉岡秀隆/作間龍斗/小林薫

★★★★☆

ダメンズ3人を養うことになった大黒柱(小池栄子)の奮闘。漫画を書かなくなったグータラ夫(吉岡秀隆)、進路に迷走する息子(作間龍斗)、熟年離婚された父親(小林薫)で家の中が超カオス。金子茂樹脚本らしいダメ男のヘリクツにげらげら笑い、新参者(父親)が立てる波風によって、手詰まりだった家族に変化が生まれる様子にホームドラマらしい見応えがある。グータラ夫が当てつけでヘンな似顔絵を描き始め、漫画家の衝動が動き出した2話にほっこり。女子トークになるとやや無個性なものの、あれもこれも小池栄子が圧倒的な生活感で支える。考察要素など1ミリもない正統派ホームドラマ。

水10ドラマ「パリピ孔明」(C)フジテレビ
水10ドラマ「パリピ孔明」(C)フジテレビ

◆「パリピ孔明」(フジテレビ系、水曜10時)向井理/上白石萌歌

★★★☆☆

渋谷に転生した諸葛孔明が、兵法を用いて新人歌手をプロデュース。転生の謎も苦悩もすっ飛ばして始まるパリピ仕様が効き、「率直な意見、感想は生きているうちに語ってこそ」と、今いる場所で堂々と自己表現していくお姿に元気をもらえる。客を満員にする、フェスに参加するなど、毎回のミッションに兵法三十六計を応用。大げさなわりにチープな仕掛けのB級感を向井理がすっとぼけた魅力で引っ張っている。主君、劉備元徳(ディーン・フジオカ)らお懐かしい面々との回想シーンは毎回ホロリとさせられて、ディーンの中国語ナレもうれしい演出。歌パートになるといきなり世界観がジブリっぽくなって戸惑う。

木曜ドラマ「ゆりあ先生の赤い糸」(C)テレビ朝日
木曜ドラマ「ゆりあ先生の赤い糸」(C)テレビ朝日

◆「ゆりあ先生の赤い糸」(テレビ朝日系、木曜9時)菅野美穂/鈴鹿央士

★★★★☆

倒れた夫の不倫を知った主婦ヒロイン。陰気な不倫ドラマかと思ったら、愛人という若きイケメンVS別宅ファミリーVS正妻のタイマンバトルで笑える。原作は手塚治虫文学賞大賞マンガ。簡単に離婚できない状況作りや、協力して夫を介護するしかないカオスの作り方がうまく、「不倫の全貌が分かるまで泣けない」という強メンタルに菅野美穂がはまる。「不倫のクソままごと」にカチンときたイケメンの応戦で物語が動き、鈴鹿央士がコメディーもうまくてびっくり。便利屋さんが魅力的なキャラクターで、演じる木戸大聖をすぐさま検索。ゆりあ先生の運命の「赤い糸」があちこちでからまっていて良い。

木曜劇場「いちばんすきな花」(C)フジテレビ
木曜劇場「いちばんすきな花」(C)フジテレビ

◆「いちばんすきな花」(フジテレビ系、木曜10時)多部未華子/松下洸平/今田美桜/神尾楓珠

★★☆☆☆

月9がトリプル主演なら、こっちは4人のクアトロ主演(多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠)。「silent」チームがどんな脚本で全員主人公の離れ業を見せるのか期待したが、テーブル囲んで平等に雑談という、平等すぎる定点ドラマだった。「2人は1人より残酷」「花は好きだけど花屋は嫌い」「4人全員、余っちゃった1人」。傷つきやすくて世の中がしんどい4人組のほほ笑みの自分語りが、何かのセミナーみたいで怖い。4人もいるのだから、4タイプの人間の孤独を描き分けてほしかった。「カルテット」っぽいとの指摘も多いが、描写する人間のチョイスが全然違うかと。

金曜ドラマ「フェルマーの料理」(C)TBS
金曜ドラマ「フェルマーの料理」(C)TBS

◆「フェルマーの料理」(TBS系、金曜10時)高橋文哉/志尊淳

★★★☆☆

数学者の夢をあきらめた高校生、北田岳(高橋文哉)が、天才シェフ朝倉海(志尊淳)に見いだされ、数学的思考で料理界の頂点を目指す。「フェルマーの定理」をもじったタイトルで数学×料理の世界観が一目瞭然。必ずある答えに向かって、別解別解また別解と突破口を探す過程に数学の極意があり、スポ根展開との相性はいい。「お前の数学の才能は料理のためにある」「親の呪いは俺が解いてやる」。マンガ原作らしい俺様なせりふに志尊淳がはまり、アートな覇王と、危なっかしい数学小僧がいいバディ。現状、数学より科学という感じ。2話で型破り感が落ち込んだが、最後まで見ます。

◆「ゼイチョー~「払えない」にはワケがある」(日本テレビ系、土曜10時)菊池風磨/山田杏奈

★★★☆☆

滞納している税金を取り立てる市役所納税課を舞台に、徴税による人助けという逆転劇を描く。前クールの「シッコウ!」とテーマかぶりで、増税増税の時代を反映。人それぞれの“払えない事情”はドラマの宝庫でもあるが、滞納者の物語をあまり美談にされても税の公平性に欠ける。エンタメとして、難しい力加減を菊池風磨が背負っており、C調な秀才がなんとか人情ドラマに持っていく味わい。1話の固定資産税だけ払う高齢者の謎はなるほど感があったが、2話は生活保護と年金受給者と税金未納者がごちゃまぜでモヤモヤ。知らないと損する税金の話だけに、スカッとした納得感をキープしてほしい。

日曜劇場「下剋上球児」(C)TBS
日曜劇場「下剋上球児」(C)TBS

◆「下剋上球児」(TBS系、日曜9時)鈴木亮平/黒木華

★★★☆☆

36歳で教員免許をとった異色教師が、弱小野球部を甲子園に導くまで。ミステリードラマのヒットメーカーである新井順子P×塚原あゆ子監督コンビが日曜劇場初登板。ただのスポ根ドラマのはずがないと思ったら、2話で南雲先生(鈴木亮平)が「教員免許を持っていません。偽造しました」。スポーツマンシップの対極にある犯罪者設定でびっくり。通報すべき山住先生(黒木華)も野球第一主義で共犯に。何も知らない生徒たちがかわいそう。奇跡に向け、後付けの真実やウルトラCが出てくるのかもしれないが、どんな名ぜりふも説得力を失う悪手に見えて、感動するコツがつかめない。

◆「セクシー田中さん」(日本テレビ系、日曜10時半)木南晴夏/生見愛瑠

★★★★☆

職場では地味キャラ、プライベートではセクシーなベリーダンサーに変身する40歳独身OL田中さんと、職場の愛されキャラ、朱里の化学反応。楽勝に見えるモテ女子も男社会で必死に生きていて、「若くてかわいい」の複雑な胸の内を、めるること生見愛瑠が生き生きと立ち上げる。「何度でも背筋を伸ばす」と覚悟を決めた田中さんも、あこがれ一直線でついていく朱里も、なりたい自分に頑張っていてすてき。「いい人ではないが悪い人でもない」男性陣がうまくからんだ2話がチャーミングだったのでひとまず4。おもしろすぎるベリーダンサー、高橋メアリージュンは今期のキャスティング賞。めるるは今期の助演女優賞。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)