美人で知的で華やかなイメージのアナウンサーは、今も昔も憧れの職業だ。一方で、正しい日本語と確かな発声で、ニュースを伝える職人でもある。アナウンサーって、どんな仕事なのか。入社23年目のベテランにして、しゃべり、笑い、怒る感情表出型パーソナリティーとして、新たなラジオスター像を築くTBSの外山恵理アナウンサーに聞いた。【取材・構成=秋山惣一郎】

-なぜアナウンサーになろうと思ったのですか

外山アナ 私、なにしろ早起きだったんです。おなかがすいて目が覚める、みたいな。で、朝の番組を見てると、「行ってらっしゃい」とアナウンサーが笑顔で視聴者を送り出してる。パッと思いつくのが、フジテレビの小島奈津子さん。あの笑顔、元気になっちゃうでしょ。朝から楽しい気持ちになれる。私も「行ってらっしゃい」の一言が言いたくて。学校や会社に行きたくない人が、ちょっとでも元気になってくれたらな、と。思い上がりですけど、フハハハ。

-外山さんと言えば、その笑い声ですね

外山アナ 通っちゃうんですよね、声が。ナイショ話ができない。アナウンサーって、本来は1歩引いて、という立場だと思ってるんです。声で分かっちゃうのは、私が考えるアナウンサー像とは違う。新人のころは難しかったですね。最近は、それも個性かな、ってようやく思えるようになりましたけど。

-アナウンサーの仕事で大切なものは何ですか

外山アナ ニュースの原稿を読んだり、スポーツを実況したり、司会を務めたり、放送に乗らないところも含めて、仕事は幅広いですが、共通するのは「伝えること」だと思います。原稿の内容や現場の状況を自分なりに理解して、1音1音はっきり、おなかから声を出す。基本です。基本がないと同じ原稿を読んでも伝わらない。実況も原稿読みも、まだまだ学ぶことがたくさんあります。アナウンサーの仕事って本当に難しいです。

-「女流-」「婦人-」といった女性表示語が使われなくなる中、「女子アナ」という呼称は、今もわりと目にします

外山アナ そう呼ばれてうれしい人もいるんでしょうけど、私はうれしくない。一人前じゃないみたいでしょ。私は「アナウンサー」でいたい。「私はアナウンサーです」って、恥ずかしくなく言いたい。いわゆる「女子アナ」と呼ばれたTBSの先輩、雨宮塔子さんや進藤晶子さんも、ただニコニコしてるだけじゃない。アナウンスの技術が、私とは違いすぎる。すごい人です。尊敬してます。先輩が大きすぎて自分を「アナウンサー」って言っていいのかなって、いまだに思います。ま、私のことを「女子アナ」なんて誰も呼ばないでしょうけど。

-フリーになろうとは

外山アナ 需要ないです。そんな欲もないです。

-会社で偉くなろうとか

外山アナ なれません(キッパリ)。今はラジオで話していたい。もっとラジオを聴いてくれる人が増えればいいと思っています。

-ラジオから、自由に楽しく話している感じが伝わります

外山アナ 私、おもしろくないと笑えない、つまんないと顔に出ちゃうんです。喜怒哀楽が出やすい。特に怒(笑い)。よく言えば素直すぎるんですね。ラジオでもくだけた調子で話してますが、原稿は正しい日本語でちゃんと読みたい。「ファクス」は「ファクシミリ」、「コンビニ」も「コンビニエンスストア」。意識はしています。ラジオ番組で長年、お世話になった故永六輔さんの教えかな。でも自分だけのこだわりでもある。今日の私、いつになくまじめじゃないですか。こんなにまじめにしゃべったことないよ。緊張しちゃう。フハハハ。

-お母さんもアナウンサーでした

外山アナ ラジオ局・文化放送で吉田照美さんの上、みのもんたさんの下ぐらいだったそうです。3年勤めて家庭に入った。仕事は楽しくて、もっと続けたかったらしいので、残念だったと思います。でも私がアナウンサーになったのは、母の志を継ぐ気持ちはないし、母も「やりたいように」と言ってくれます。

-元アナウンサーとしてのお母さんから教わったことはありますか

外山さん 母はとても声のいい人で、私が子供のころ、本の読み聞かせをしてくれました。私が教科書を音読してると、アクセントが違うなんて注意もされました。今、アクセントに苦労しないのは、母のおかげかもしれませんね。

-子供時代から、アナウンサーになるための努力が必要なんですね

外山さん いいえ、子供時代は、何かひとつにこだわらず、いろんなことに興味を持ってほしいです。こだわりすぎると、他のことが見えなくなる。とにかく、毎日楽しく、明日、何があっても後悔しないよう、生きてください。

◆外山恵理(とやま・えり)1975年(昭50)、東京都生まれ。TBSアナウンサー。98年入社。テレビでは「チューボーですよ!」「どうぶつ奇想天外!」「ゴロウ・デラックス」などに出演。ラジオ「土曜ワイドラジオTOKYO永六輔その新世界」など永さんのアシスタントを長く務めた。現在は「たまむすび」の金曜パーソナリティーを担当。