プロデューサーで監督の角川春樹氏(78)が、最後の監督作と公言する「みをつくし料理帖」が16日に公開される。70、80年代に「風雲児」と呼ばれ、麻薬密輸事件による約10年間のブランクもあった。このほど取材に応じた角川氏が語った作品に込めた思いなどを、ニッカンスポーツコムでは4回にわたって配信します。第2回は「最後の作品の『熱』と『涙』」。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

最後の監督作品「みをつくし料理帖」には、44年の映画人生でも、経験したことのない「熱」と「涙」があった。76年の初プロデュース作「犬神家の一族」に主演した石坂浩二(78)を始め、ゆかりの俳優も大挙出演した。角川映画80年代の看板女優、薬師丸ひろ子(56)も参加した。

「ひろ子の出演は1日だけだったけど、撮影終わりの恒例として花束を渡したんだ。そうしたら彼女号泣したんだよ。『野性の証明』のオーディションに来た13歳の時を思い出したそうだ。あの映画の最初の金沢ロケが誕生日だった。その時取材したスポーツ紙は『14歳の大物女優』と書いた。その通り、彼女はデビューの頃から出来上がっていた。あれから40年以上たって、内面はそのままなのに、互いの外見の変化を目の当たりにして『時間がたったんだなあ』という感慨の涙だったんだね。きっと」

06年の映画「蒼き狼」の若村麻由美(53)には、その変化に驚かされた。

「若村は成熟して『蒼き狼』の時よりきれいになった。何より演技力が段違いに上がった。ホン(台本)を一読して、いきなり『(自分の役は)大阪弁でも船場言葉ですね』なんて言う。その通り元老舗料亭のおかみだから、街中とは微妙に違うんだけど、そこに一発で気付く読解力にびっくりしたね」

撮影が始まる前にセリフだけを合わせる本読みを計4回やったのは、角川映画では前例のないことだ。

「プロデューサーの立場だったら、お金も時間もかかるそんな作業は絶対に許さなかったけど、今回は最後の監督作品だからこだわらせてもらった。(角川作品では)43年ぶりの石坂浩二さんにも参加していただいた。浅野温子もそうだけど、今回初めての奈緒が最初の本読みからホンを持ってこなかったのにはびっくりした。全部セリフが入っていて、演技が出来上がっていた。本読みを始めてからは、中村獅童も窪塚洋介も、そして松本穂香もどんどん良くなって、カメラが回る時には、全員出来上がっていた。私の関わった作品では、そんなクオリティーでスタートしたのも初めてだね」

1日だけ参加した薬師丸は「今まで感じたことのない熱のある現場ですね」と感想を漏らしたという。その「熱」の背景には、映画全盛時の巨匠にだけ許されたような、ぜいたくな準備の時間があったのだ。【相原斎】