俳優、声優として活躍した寺田農(てらだ・みのり=本名同じ)さんが、3月14日に肺がんのため亡くなったことが23日、分かった。

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薬師丸ひろ子が主演した「セーラー服と機関銃」(81年)の撮影現場は、長回しで知られる相米慎二監督のこだわりで、やたらに待ち時間が長かった。

悪役の1人として出演していた寺田さんが数時間待ちの後、怖いほどのニヒルな表情で殺しの演技を1度で決めた姿を覚えている。当時39歳、個性派としての地歩を固めていたのに、しれっと端役をこなす姿勢に妙に感銘した。実は同時公開のライバル作品「ブルージーンズメモリー」でも、印象的なヨットの船長を演じていて、しがらみとも無縁の人だった。

「飽きっぽいんですよ。自分の意思でかくありたいと思ったことはありません。考え方がアマチュアなんですよ」と話していたことを思い出す。頼まれれば、たいがいの仕事は引き受けたが、それに応えられるだけの生来の柔軟性が才能だったように思う。

サッカーにまったく興味がなかったのに、早大受験時の面接官がたまたまサッカー部の部長だったことから「サッカーをやるために早稲田を受けました!」と調子を合わせ、行きがかり上の入部で堂々と強豪の一員となったことがこの人の適応力を物語っている。ひいては芸能界屈指のサッカー通に。なんとAV監督もやったことがある。

岸田森、橋爪功、樹木希林…個性派ばかりの文学座研究所1期生では、目立つ方ではなかったが、途切れることのない63年間の、ひときわ多彩で安定した仕事ぶりこそが持ち味だった。【相原斎】