4年前、台湾のトム・リン監督にインタビューする機会があった。阿部寛(61)を主演に迎えた映画「夕霧花園」公開を控えたタイミングだった。
台湾では日本の映画はもちろん、ドラマも数多く放送されていて、監督は阿部の大ファンと明かした。
映画は1940年代から80年代のマレーシアを舞台で、阿部の役は謎めいた日本人庭師。背後に旧日本軍との関係をうかがわせる複雑な設定だ。「この役には阿部さんしかないと思ったんです。英語の演技経験とか、そんな必須条件をまったく考えないまま、まっさきにオファーを出したんですよ」と振り返った。
メールなどを通じた一定期間のやりとりの後、快諾を受けた監督は「本当にラッキーだと思いました」と当時の興奮を思い出すように笑った。
マレーシアの撮影現場で初対面した阿部の姿には感激したという。
「現場に現れたときから、アリトモ(有朋=役名)そのままのたたずまいだったんですよ。忙しいはずの人気俳優が準備万全で来てくれたことに感激しました。日本人ならではの行動、考え方については阿部さんが頼りでした。撮影前のディスカッションでは、いつも彼の意見が参考になりました。日本人だけのシーンもあったんですが、その時は段取りからすべて阿部さん仕切りで、文字通り彼が監督。僕は一観客の立ち位置でしたね」
劇中ではロケ地キャメロン高原の美しい景色が印象的だったが、撮影は真夏に行われた。
「炎天下の撮影は重労働でしたね。阿部さんは平然と臨んでいましたけど、きつかったまずです。ロケ地のそばにせせらぎがあって、休憩のたびにそこまで走って冷たい水に足をつける阿部さんの姿が記憶に残っています」
マレーシア出身のアンジェリカ・リーふんするヒロインとの呼吸もピタリと合い、味わい深い作品に仕上がっていた。が、多忙な阿部がなぜ異国からの突然のオファーを受け、献身的に尽くしたのか、そのことをずっと聞きたかった。
先日、主演映画「俺ではない炎上」のヒットを機に取材の機会があった。
「たまたま(出演作の)公開が重なったりしますけど、けっこう隙間はあるんですよ。やったことのない役をやりたい、新しい発見をしたいという思いが常にあるので、そこにひかれたんだと思います。あの作品は9カ国くらいからスタッフ、キャストが集まっていて、動きだけで互いに理解し合っていましたね。見えない共通言語というか、映画の現場では言葉はいらないっていう実感もあって、本当に素晴らしい経験ができました」と話した。
「メンズノンノ」のカリスマモデルから華々しく俳優デビューした阿部は、その直後からイメージが固定化して不振の時代を経た苦い思い出もある。常に新しいもの、やったことのない役という思いは当然なのかもしれない。「俺では-」では「テルマエ・ロマエ」(12年)とその続編(14年)以来の肉体美も披露。「60歳超とは思えない」とネット上をざわつかせている。
同世代の俳優に比べて、やたらに本数が多く役幅の広いフィルモグラフィの中でも、やや違和感のあったマレーシア映画「夕霧花園」も納まりよく見えてきた。【相原斎】



