時に怖いくらいの迫力があり、時に優しく包容力を感じさせる。役の大小にかかわらず、國村隼(70)の存在感は強烈だ。
主演ドラマ「ドビュッシーが弾けるまで」の24日放送を前に話を聞く機会があった。劇中ではドビュッシーの「月の光」のピアノ演奏を披露しているが、実は収録の1カ月前まで「鍵盤のどこが『ド』だが分からないレベルだった」という。70歳の初挑戦。前向きな姿勢には頭が下がる思いだった。
来年は俳優生活50年の節目となる。そのことを聞くと「えっ、本当ですか。そんなになるんだ。自分では全然意識していませんでした」と心底驚いた様子だった。デビューのいきさつや若くしてハリウッド大作に出演したことを、まるで偶然の巡り合わせのように語ったが、持って生まれた存在感だけでなく、決して振り返らない前向きな姿勢があるからこそ、国境や言葉の壁をスイスイと越えてきたのだと思った。
リドリー・スコット監督、マイケル・ダグラス主演の「ブラック・レイン」に高倉健さん、松田優作さんらとともに出演したのは、まだ俳優としての足元が定まらない33歳の時だった。
「試行錯誤の連続で、このまま役者を続けていいんだろうか。そんな風に思っていた時期でした。そんな時、たまたま新聞記事で『ブラック・レイン』の大阪ロケを知ったんです。このオーディションでダメなら、もう自分は求められる存在ではない、と。続けるか、辞めるか。リドリー(・スコット監督)にゲタを預けることにしたんです」と笑いながら振り返った。
オーディションでは、メインキャストの凶暴なヤクザ佐藤役のセリフを読まされた。結果的にこの役は優作さんが演じることになるのだが、その子分でダグラスふんするニック刑事への刺客となる吉本という印象に残る役が回ってきた。
「吉本役は誰か? となった時、リドリーが写真を指さして『コイツしかいないだろう』と言ってくれたそうなんです」とうれしそうに振り返った。
この撮影の翌年には香港に渡り、3年間そこを拠点に俳優活動を行った。ジョン・ウー監督、チョウ・ユンファ主演の「新・男たちの挽歌(ばんか)」に出演したのもその時だ。この作品はウー監督のハリウッド進出を決定づけ、「ミッション・インポッシブル2」などの大作製作につながっていく。
この5年後に映画初主演となった「萌の朱雀(すざく)」は河瀬直美監督に史上最年少のカンヌ映画祭新人監督賞(カメラ・ドール)をもたらし、この映画でスカウトされたロケ地奈良県の女子中学生が後の女優・尾野真千子となった。
共演者は「いるだけで安心感がある」「頼りになる存在」と國村のことを評するが、その存在感は作品の厚みとなり、共演者に「化学反応」を起こすようだ。
近年では「MINAMATA」(21年)で。ジョニー・デップと念願の共演を果たした。
「想像していた通りの人でした。素顔はユーモアたっぷりなんですけど、いざ撮影本番となると、テイクごとに何がくるか、どんな演技でくるかが読めない。緊張しましたね。でも、楽しかった」
デップとの共演を国内の仕事と同列で語れる人はなかなかいない。
「年齢は感じますよ。体の節々が痛いですもの。でも、やりたいことはまだまだたくさんありますね」と、最後まで意欲的だった。【相原斎】



