受信機さえあればどこでも気軽に聴けるラジオ。今年は民間のラジオが開局してから70年の節目となります。ネットに押されている状況は他メディアと変わらず、放送局は苦戦を強いられています。それでも「radiko(ラジコ)」などデジタルとの組み合わせで、19年のラジオ広告費は前年比98・6%と健闘しています。音声コンテンツ市場は今後も急成長が見込まれ、新規参入も増えています。音声を取り巻く現状と今後の課題を解説します。【竹村章】
1951年(昭26)9月1日、CBCラジオと毎日放送が開局し、日本の民間放送がスタートしました。それから70年。地上波テレビ放送、衛星放送が始まり、現在はネットでの動画配信も隆盛です。19年にはネット広告費が2兆1048億円に上り、初めてテレビメディアの広告費(1兆8612億円)を抜いたことが話題となりました。
昨年6月には新潟県と愛知県のラジオ局が相次いで閉局しました。コロナ禍で在宅時間が伸び、ラジオの聴取時間が伸びた一方、両局は広告収入の減少による経営悪化で、事業を継続できなかったようです。
ラジオ局の厳しい経営状況は変わりません。AM局の営業収入のピークは91年の2040億円。19年には764億円と62%も減少しました。新局が比較的多いFM局はAM局ほどではありませんが、ピークの00年の974億円から、19年は599億円と38%減っています。
AM局は送信範囲が広いのが強み。しかし、ニッポン放送やTBSラジオなどは、高さ120メートル超のアンテナに、ラジアルアースを張り巡らす東京ドームほどの敷地が必要なのです。対して、FM局は送信設備も小規模で維持費は低コスト。関東広域局も現在はワイドFMとして放送していますが、アンテナは東京スカイツリーのみ。AM局の継続には設備更新が必要で多額の費用がかかるため、放送を維持しながらの設備更新は全国的には困難な情勢です。局によって事情は違いますが、日本民間放送連盟(民放連)はAM局がFMに転換することが可能な制度を求めています。
ラジオ業界で、復権の切り札と期待されているのがradiko(ラジコ)です。民放全99局が参加し、昨年、設立10周年を迎えました。昨年2月の月間ユーザー数は約750万人でしたが、コロナ禍で在宅勤務なども増え、月間ユーザー数は900万人超に。日間のユーザー数も、約140万から最近は約175万人にまで伸びているといいます。また、全国の放送局の聴取が可能になるエリアフリー機能があるプレミアム会員(月額350円)も約84万人に達し、総聴取時間も70億分を超えて過去最高を記録。同社は「タイムフリーで過去1週間以内の番組を聴かれるユーザーの割合も増え、約半数の方々にご利用いただいております」と話しています。
このラジコにあわせるように、テレビ視聴率やラジオ聴取率を調査するビデオリサーチ社も、聴取率調査の方法を変えました。20年4月からサンプル数を5000に増やし、ウェブ調査にチェンジ。さらにラジコのデータを用いて、日々のラジオ聴取状況を推計する「ラジコ365データ」も始まりました。これまでの調査は年に6回で、それも6週間のデータしか分かりませんでしたが、現在はリアルな数字が分かるようになりました。聴取人数も把握できるようになり、例えば昨年のコロナ禍で在宅率が高くなった4月20日の週には、首都圏民放5局のトータルの週別平均聴取人数(1分あたり)が約90万人と、ピークに達しました。
ラジコの成功に歩調を合わせるように、ポッドキャストなど、さまざまな音声コンテンツが増えています。Voicy(ボイシー)やhimalaya(ヒマラヤ)など、YouTubeのような投稿型の音声コンテンツも普及。激しい競争になっています。
テレビ、パソコン、スマホなど、視覚に訴える映像メディアの現状は飽和状態だといえます。どのメディアも24時間を奪い合う中、ラジオをはじめとした音声メディアは、「ながら聴取」が可能な点がキーポイントのようです。あるラジオ局関係者は「パソコンに向かうと同時に、スマートスピーカーでラジオや音声コンテンツを聴いています。一般的に、目はかなり酷使されていますが耳にはまだ空きがあり、可能性があると思っています」と話しています。
調査会社デジタルファクトによると、19年のデジタル音声広告市場規模は7億円ですが、20年には2倍以上の16億円、さらに25年には420億円に達すると予測されています。ラジオ大国の米国でも、ポッドキャスト市場が急成長。デジタル音声広告の市場は18年に約2500億円、19年には3000億円を超えました。日本でもこの市場には熱い視線が送られており、関係者によると、大手ファストフードチェーンがラジコの音声広告をターゲティング配信したところ、ネットのバナー広告よりも高い来店効果があったというデータもあるようです。
古くて新しい音声コンテンツ。放送と通信が融合する5G時代には、ラジオ局を中心に、他業種からの参入も含めて、ユーザー獲得の厳しい戦いが繰り広げられそうです。
<ポッドキャストとは>
ネット上で音声ファイルを公開する仕組みですが、音声コンテンツ配信サービスのほか、その番組を指す場合もあります。アップル社のオーディオプレーヤー(ipod)と放送(Broadcast)の造語で、音声コンテンツにはさまざまな形態があります。
ラジオ局もニッポン放送の「poddog」、J-WAVEの「SPINEAR」、エフエム東京系ネットワークJFNの「AuDee」など音声配信に力を入れています。さらに、音楽配信アプリのSpotify(スポティファイ)も、19年からオリジナルのポッドキャストを配信。アップルミュージック、アマゾンミュージックも参入し、裾野が広がっています。
16年に始まったボイシーやヒマラヤ、ラジオトーク、スプーン、スタンドエフエムなど投稿型の音声コンテンツも増えています。
◆竹村章(たけむら・あきら) 1987年入社。販売局、編集局地方部などを経て文化社会部。放送局などメディア関連の担当が長い。テレビ特集ページ「TV LIFE」を立ち上げたほか、現在も続く「ドラマグランプリ」の創設にかかわった。テレビ出演も多く、過去にはテレビ朝日系「ワイドスクランブル」にレギュラー出演していたほか、現在は日本テレビ系「ミヤネ屋」に出演。