あの「飛行機ポーズ」の理由は…? 歴史的な一戦の裏側に迫る連載「G1ヒストリア」。今回はコパノリチャードが制した14年の高松宮記念を振り返る。G1昇格後唯一の不良馬場での激闘。前年にJRAの通年免許試験で不合格に終わったミルコ・デムーロ騎手(44)にとって“雨のち晴れ”の歓喜だった。

あの日の空が象徴していた。前夜から降り続く雨粒は未明から大きくなった。芝は不良馬場へ悪化。泥田のようにぬかるんでいた。

ミルコも晴れない気持ちを抱えていた。前年秋のJRA通年免許試験で不合格。「130%の力を出したし、すごく落ち込んだ。それから調子も悪くなった」。直前は2カ月も馬に乗らず猛勉強に専念。自身最長のブランクが響き、レース勘も狂ってしまった。当時はまだ再挑戦する気になれなかったという。

ただ、道悪はチャンスととらえていた。初めてまたがった当週水曜の追い切りが重馬場。「すごくパワフルだったし、いいと思った」と地の利を感じていた。

大一番の約1時間前に、雨はあがった。分厚い雲の下でゲートが開く。発馬を決めて好位へ。直線を向いてインからコース中央へ持ち出し、残り100メートルで先頭に立つと、あとは独走だ。後続の脚音はどんどん遠ざかっていった。

勝利を確信したイタリアンは、ゴールを待たずに両腕を真横へ広げた。「あれは(サッカーのFW)モンテッラのまねです」。故郷ローマの英雄のパフォーマンスは、さすがに早すぎた。過怠金は10万円。「裁決に怒られた。反省しました。気持ちが出てしまった」。決して褒められない行為ではあるが、インタビューで「チョーうれしい!」と叫んだ思いの爆発だった。

雲の切れ間からは光が差し込んできた。短期免許最終日につかんだJRA・G1・10勝目。「あれで気持ちが楽になった」。まもなくして日本移籍へのリトライを決意した。まさに雨のち晴れ。泥沼からのテイクオフだった。【太田尚樹】

14年第44回高松宮記念の結果
14年第44回高松宮記念の結果