今年で24回目を迎えるチャンピオンズCは、前身のJCダート時代から多くの名勝負を生んできた。レース史上唯一の連覇は10、11年のトランセンド。1度目の10年は名トレーナー、安田隆行調教師(70)にとって、なかなか勝てなかったG1の壁を乗り越える勝利だった。歴史的な一戦の裏側に迫る連載「G1ヒストリア」で当時を振り返る。

10年のJCダートを制したトランセンド(左)
10年のJCダートを制したトランセンド(左)

00年に日本初のダート国際招待競走として「JCダート」が新設された。当初は東京ダート2100メートルが舞台だったが、08年に阪神ダート1800メートルに変更。さらに14年からは現在の中京へと舞台が替わり、名称もチャンピオンズCとなった。東京(改修中の02年は中山)、阪神、中京と、それぞれで名勝負が繰り広げられたが、トランセンドが制した10年も、インパクトのあるものだった。

ハイライトは先行争い。内枠から好スタートを切ったトランセンドがハナを主張するが、バーディバーディが外から並びかけ、さらに外からはダイシンオレンジが手応え良く先行する。それでもトランセンドは譲らず、先頭で最初のコーナーを回った。

当時、開業16年目だった安田隆師は「走りだすと前向きになる馬だった。だからハナへ行った方が力を出せた。あそこで他の馬を抑え切ったのが大きかったですね」と振り返る。そのままペースを緩めず逃げ続け、直線で食い下がってきたバーディバーディを競り落とす。そして最後に追い込んできたグロリアスノアを首差しのいだところがゴールだった。藤田伸二騎手は左手を高々と掲げた。

検量室前で愛馬を待つ師は涙をぬぐった。「すごくうれしくて…。騎手としてG1を勝った時もうれしかったけど、また違った喜びがありましたね。なにかスタッフたちと『みんなで勝った』という思いがありました」。騎手時代はトウカイテイオーで91年ダービーなどを制したが、調教師としてはこれが初G1タイトルだった。

10年、JCダートを制したトランセンドと安田隆師(左)と藤田騎手(右)ら
10年、JCダートを制したトランセンドと安田隆師(左)と藤田騎手(右)ら
 
 

この後、安田隆師はトランセンドのJCダート連覇や、ロードカナロアでの国内外G1・6勝などせきを切ったようにビッグタイトルを積み重ねた。「あのJCダートが私にとって大きなものでしたね」。現在JpnIを含めた国内外のG1級勝利数は「20」に上る。ゲームチェンジャーとなったのが、10年JCダートだった。

トランセンドは引退後、種牡馬となり今月18日には産駒のメイショウモズ(牡3、松永昌)が京都の蹴上特別(2勝クラス)を勝った。「(松永)昌博さんに『トランセンドはいい子を出すな』と、言ってもらいましたよ」。安田隆師は父親の顔でほほ笑んだ。【岡本光男】

◆安田隆行(やすだ・たかゆき)1953年(昭28)3月5日、京都府出身。72年に騎手デビューし、94年に引退するまで通算680勝。トウカイテイオーで91年皐月賞とダービーを制した。95年に調教師開業し、JRA通算962勝。重賞58勝、G1級はJRA、地方、海外含め20勝。

◆トランセンド 2006年3月9日、北海道新冠町生まれ。生産者はノースヒルズマネジメント。馬主は前田幸治。父ワイルドラッシュ、母シネマスコープ(トニービン)。09年2月京都でデビュー。同年レパードSで重賞初制覇。10年JCダートでG1初制覇。11年はフェブラリーS勝利後、ドバイワールドCへ挑戦しヴィクトワールピサの2着。同年JCダートで連覇達成。通算24戦10勝。