感謝とともに、思い出がしみこんだグラウンドに別れを告げた。今季限りで現役を引退する日本ハム田中賢介内野手(38)が、楽天25回戦(東京ドーム)に「6番指名打者」で先発出場し、かつての本拠地でのラストゲームに臨んだ。プロデビューした日から、ちょうど19年目。結果は4打数無安打も、チームは4-2で連敗を止めた。残り11試合。いよいよ現役生活もカウントダウンに入る。

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右翼席が、田中賢カラーのピンクに染まった。「ありがとう」の応援ボードが揺れ、東京が本拠地だった頃のユニホームに身を包んだファンは何度も涙をぬぐった。「ケンスケ~!」。8回2死一塁で迎えた第4打席、終わらない“ケンスケコール”に、思わず目頭が熱くなった。「良いときも悪いときも常に見守ってくれたファンの方たちなので、すごく感謝していますし、最後の打席のファンの声援は忘れることがない。感動しました」。東京ドーム最後の打席は、フルカウントからの左飛。「良いところを見せたいと思って必死に頑張りましたけど、それが空回りしてしまった」。それでも、大きな拍手と歓声が背番号3に降り注いだ。

19年前の同じ日、同じ場所でプロデビューした。「やっと1軍の舞台に立てた」という喜びを抱え、震える足で初打席に向かった。初安打も初打点も初本塁打も、1000安打も、ここで記録した。かつての本拠地だけに、愛着はひとしおだ。不人気球団だった東京時代。まばらだった観客席がウソのように、今はこんなにも多くの人に応援してもらえる。試合後、この日のヒーロー宮西に促され、急きょマイクを握った。「この東京ドームが僕の基礎を作ってくれたと思いますし、それがなかったら北海道で羽ばたけなかったと思うので、本当に感謝しています」。泣き虫だから、涙をこらえるのが大変だった。「札幌の引退試合は、ちょっと不安ですね」と苦笑いだ。

試合前のセレモニーでは、入団時の監督で、99年ドラフト会議で3球団競合の末に交渉権のクジを引き当てた大島康徳氏(68)から花束を受け取った。「1500安打を目指しているなら、可能性がある限り諦めちゃいかん」。かつての指揮官の激励が、胸に響いた。目標の数字まで、あと6本。「ここまできたら、達成したい。野球選手として最後の1球まで全力で頑張りたい」。残り11試合。カウントダウンに入った現役生活を、悔いのないよう全力で駆け抜ける。【中島宙恵】