花組の人気スター鳳月杏(ほうづき・あん)は、兵庫・宝塚大劇場で上演中の「MESSIAH(メサイア)」「BEAUTIFUL GARDEN」で、芸達者ぶりを発揮している。花組トップ明日海りおが天草四郎を演じる芝居「MESSIAH」では、キリシタンを徹底的に弾圧する残忍な藩主役。「救いようのない悪役」への役作りに葛藤し、見事な「根っからのワル」を表現している。宝塚は20日まで、東京宝塚劇場は9月7日開幕。

 女性、子供にも容赦はない。圧政を敷き、キリシタンを弾圧する島原藩主・松倉勝家。「救いようのない悪役」だ。天草四郎役のトップ明日海も「気持ちいいほどの悪」とたたえる。振り切った鳳月の演技が、芝居に奥行きを生んでいる。

 「新たな引き出しができるので、こんな悪役を演じてみたかった。でも、想像した以上に難しかった」

 芝居巧者のスターはこれまで、役の心情に寄り添い演技プランを決めてきた。

 「ただ今回は、深く考えずに悪くいった方が、島原の乱へ流れるきっかけになると思った。分かりやすく、表情、色味、キャラクターとしての『ワル』を出そうと、ディズニー・アニメのインパクトある悪役をイメージして作りました」

 見ていても心地いいほどの「ワル」に仕上げてきた。「みえをはって、強くないと生きていけない時代だったのかな」と想像。「自分の役割をこなしていくだけ」という点には共感も抱けた。普段は「1人で集中して舞台に立つ」タイプだが、今回は違う。

 「楽屋でも舞台袖でも、あまり静かにしていると、パワーが出るのに時間がかかってしまうので、なるべくテンションを上げています。あえて人と会話をし、話し掛けたことのない下級生にダメ出しを(笑い)」

 メーク、髪形、衣装はもちろん、小道具、小さな動きまで徹底的にこだわる。

 「日本刀のさばき方、出し入れも、悪役だと失敗したら恥ずかしいどころか、許されない。毎日、空き時間を見つけては抜いて差して、と練習しました」

 下級生時代から姿勢は変わらない。新人最終の7年目に初主演。遅咲き。群衆芝居、群舞が多く、個性の発揮を考え抜いてきた。

 「枠内の許される範囲で、テイストを変えていきました。下級生の頃から、ちょっとした工夫が、髪の色や(化粧の)線ひとつにも大切だと感じていました」

 06年、入団時は月組。3年先輩に明日海がいた。「もともと美しいお顔に、さらに繊細に緻密に計算されて、目の描き方にもこだわってらっしゃる」。背を追った。花組へ移りトップに就いた明日海体制の同組へ、鳳月も15年に異動した。

 「若い子たちが挑戦している中で、安定したものも必要。私は、きっちりとお芝居を締め、地に足がついた男役の踊りをみせる。安定感は(自身が)背負わねば、という責任感がある」

 明日海体制も5年目。柚香光(ゆずか・れい)ら若手も成長し、充実する花組の中心に、鳳月もいる。

 「明日海さんは、月組で学んだものを貫きつつ、花組の伝統をうまくブレンドして、ひとつの男役の形を確立されている」

 尊敬する明日海の存在が、さらなる柔軟性をもたらす。「家に犬がいるので、休みの日は仕事を忘れて、愛犬と遊び、ドライブに。とことん休みます」。プライベートも充実。鳳月、そして花組の盤石さに揺るぎはない。【村上久美子】

 ◆ミュージカル「MESSIAH(メサイア)-異聞・天草四郎-」(作・演出=原田諒氏) キリシタンが隠れ住む天草に、1人の男(明日海りお)が流れ着く。四郎と命名された男は、人々の温かみに触れ、1人の娘(仙名彩世)と出会い、キリシタンの教えを知る。島原藩主(鳳月杏)は厳しい年貢の取り立てを敢行。圧政に苦しむ民衆のため、四郎は立ち上がる。

 ◆ショー・スペクタキュラー「BEAUTIFUL GARDEN-百花繚乱-」(作・演出=野口幸作氏) トップ明日海を中心に、比類なき「美の宝庫」花組の魅力をつづる。鳳月は芝居とは一転、色香漂う男役の魅力を発揮している。

 ☆鳳月杏(ほうづき・あん)6月20日、千葉県船橋市生まれ。06年初舞台。月組配属。13年「ベルサイユのばら-オスカルとアンドレ編-」新人公演で、アンドレを演じて初主演。15年に花組へ移り、月組時代から背を追ってきたトップ明日海を支える立場に。今年5月の博多座「あかねさす紫の花」では、明日海、柚香光らと役代わり。身長172センチ。愛称「ちなつ」。