R-指定(31)とDJ松永(32)によるヒップホップユニット、Creepy Nutsが、新アルバム「アンサンブル・プレイ」を発売し、19日付オリコン週間ランキングで3位と好スタートを切っている。現代のヒップホップシーンを引っ張り、ソロ活動でもバラエティー、ドラマなどお茶の間を楽しませるなど進化を続ける2人。このほど本紙のインタビューに応じ、新作への思いや、今後について聞いた。【聞き手=大友陽平】

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昨年9月発売の「Case」以来のオリジナルアルバムは「アンサンブル・プレイ」と名付けた。まさに今の2人を象徴する言葉だ。

松永 タイトルは自分が考えました。ヒップホップは、自分の考え、過去、未来とか、半径数十メートル以内の自分の内面とかを歌う、それを様式美とするようなジャンルなんですけど、今回はフィクションでモノを書くことにトライしていきました。1曲1曲、別の物語を紡いでいるけど、そこはRさんのフィルターを通して書くので、フィクション具合が7割、6割と“アンサンブル”だったり。ラップの歌唱法の引き出しも、日本のラッパーの中でも異常に多くて、本当に1人で”アンサンブル”してるなって。俺は俺で、DJ以外にもいろいろな活動もさせていただいているし、そんな2人が合わさった時に、より“多重演奏”してるなと思ったんです。

アニメ「よふかしのうた」オープニング曲で最新曲の「堕天」や、今年のセンバツ高校野球のMBS公式テーマ曲「パッと咲いて散って灰に」など、収録曲のタイアップ数も過去最多だ。

R-指定 前作の「Case」で、ヒップホップのドキュメンタリー的な側面でいうと、現在の自分たちの表と裏とか、光と影の部分とかはある程度書き切ったという意識がありました。全体で見ると、アルバム自体の目線も目まぐるしく変わるし、歌唱法も変わるし、ビートやトラックのリズム、ジャンルさえも1曲ごとにガラッと変わっていくような、カラフルさがあるというのが、このタイトルを象徴してると思うんです。そんな中で、「のびしろ」の「THE FIRST TAKEバージョン」が入っているというのは、結果的にすごく意味の通ったものになったなと思っています。

前作「Case」に収録された「のびしろ」は、ポジティブな歌詞が10代など若者にも多くの共感を呼び、現在も「TikTok」での総再生回数が3.7億回超え、「インスタグラム」のリール投稿での再生回数も1.2億回を超えるなど、ロングヒットを続けている。

松永 ビックリですね。昔から30代になった時に、30歳の曲を作りたいよねみたいな話をしていて、「Case」の最後の曲として作って。10代の人とかが聞いてくださることになるとは正直全く思ってなかったです。今はSNSきっかけで、いつ、どこで、曲の何が、どの部分がはやるか本当に分からない時代ですが、今まさしくそういうものに、自分たちが初めて直面したなという実感あります。

R-指定 30歳を迎える1人の男の視点というのが、思わぬ広がり方をしました。30代を迎えた男が…というか自分なんすけど、とぼとぼ歩いてるような、背中を映したようなアングルの曲やなと思っていたんですけど、10代の人は振りをつけて踊ってくれたりとか、今から受験ですみたいな子たちが「聞いて元気が出ました」みたいな…。自分たちの手元を離れて、誰かの目線になって、誰かの気持ちになって、誰かの曲になったという「のびしろ」が、今回のアルバムに入ってるというのが、結構重要かなと。意図的に自分以外の目線というところから始まる曲が大多数を占める中で、すごく締まった感じはしますね。

結果的にこれまでの自分たちが集約されつつ、これまでとはまた違う色を表現した作品に仕上がった。

松永 完全ドキュメンタリーじゃない、フィクションで書くRさんの詞の表現を、ぜひ楽しんでほしいなと思います。元々昔から遊んでいる時とか、Rさんの妄想のしゃべりがすごくおもしろかったんです。だからフィクションを書いたら、めちゃおもしろいに決まってるって昔から思ってたから…。まだ世に見せていない引き出しが開いたというか…。こう受け取ってほしいというよりは「それでは、お聞きください!」という感じなんですけど(笑い)。「1MC、1DJ」の最小編成で、こんなに幅のある曲、バリエーションのあるアルバムを作れたというのは、自分でも満足しているので、そこを楽しんでほしいです。

R-指定 俺のラップは、そもそもすごく説明的なラップが多かったんですけど、それをしなくていいようになったんです。それは、松永さんのビートが場面設定をしてくれたり、そもそもの舞台転換みたいなことをしてくれるように、よりなってきたから。そういうやりとりを近年の制作でお互い培っていって、今のところの「最大公約数的なアルバム」なんじゃないかなと思います。急にストーリーが始まっても、松永さんの音色で、背景とか色とか、空間の奥行きみたいなところも表してくれる。2人がかりで物語を始められるという「あうん感」みたいなのが、出来上がっているなと。「昔、昔~」がなくても、パンッと始めれる感じを楽しんでほしいです!

13年に2人で活動し始めてから、まもなく10年になる。どんな未来を思い描いているのだろうか。

R-指定 今までもずっとそうやったんですけど、ちょっと先すら、計算せずにやってきた部分があります。逆にそれが自分らの活動的には良かった部分というか、自分に関してはいいラップを、いい歌詞をみたいなところを考えてきたので、そこはあまり変わらず、引き続きなのかなという感じだと思います。次の曲どうしよう、次のライブどうしようというのが、真っ先に頭に浮かぶ感じになってしまっています。

松永 俺もほんと昔から目標とか、夢とかを想像するのが先天的に苦手なタイプで…。DJを始めた時も、何も考えずに、とりあえず明日やりたいから高校も辞める…そういうノリだったので。自分の目の前、目の前でやってきたので、そのおかげで目の前のことに集中して頑張れて、その積み重ねての意味があるのかなって思います。その目の前のことって、1日1日の大事な仕事だったり、今作ってる曲だったり、今日のライブ…みたいなことだったりするので、それって、我々の活動の本質じゃないですか? 1つ1つ、自分らの本来の活動を、全力で一生懸命、誠心誠意取り組んでいくということが、未来を作っていくことになるのかなと思っています。今回の作品でいろいろトラックやサウンドも作りましたけど、まだまだ自分の頭の中にあるアイデアで、手を出していないことは山ほどあるので。見たことないもので、かつ胸を張っていけるものを、引き続き作っていきたいです。

確かに、東京オリンピック(五輪)閉会式でDJプレイすることは、最初からなかなか想像はできない…

松永 テレビであまり五輪とかを見てこなかった人間なのに、俺がやるんですか? みたいな(笑い)。だから1年単位でも想像できないことばかりなんです。Creepy Nutsが始まってから、個人の活動も含めて、そんなのばっかりで。今年の上半期だけでもそうなので、逆に先の未来が楽しみですね。

 

○…Creepy Nutsのアルバムでおなじみになっているのが、曲間に2人のラジオ的なMCが入る「ラジオ盤」の存在だ。

松永 元々通常盤を出してなかったんです。CDを買う人は、コアファンだろうなと勝手に思っていて、通常盤にラジオを入れて付加価値をつけて、曲だけ聞きたい人はサブスクで…とか思っていたんですけど、結局通常盤もあった方がいいなという(笑い)。ラジオは、自分たちの大切な仕事の1つで、楽しみ、遊びの1つでもあるので。おもしろい試みだと自分たちも思っていますし、続けていきたいなと思っています。

 

◆Creepy Nuts(クリーピー・ナッツ) 1991年(平3)9月10日、大阪府生まれのR-指定と、1990年(平2)8月23日、新潟県生まれのDJ松永による2人組ヒップホップユニット。13年頃から活動を始め、17年8月にメジャーデビュー。R-指定は、12~14年の全国大会「UMB GRAND CHAMPIONSHIP」で3連覇、松永は日本代表として出場した「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIP FINALS 2019」でバトルDJ世界一に輝く実績の持ち主。18年4月からニッポン放送「Creepy Nutsのオールナイトニッポン0」開始、今年4月から月曜1部に“昇格”するなど、ラジオでも人気。それぞれがバラエティー番組やドラマでも活躍。