12番人気アイサンサン(牝4、橋田)が記録と記憶に残る大仕事をやってのけた。大外枠から果敢にハナを切り、ゴール前の激戦で差し返した。見事にエスコートした幸英明騎手(50)は、昨年11月の大けがを乗り越えてのJRA重賞50勝目。開業からわずか3週目の橋田宜長調教師(37)は初勝利を重賞で飾った。

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最内から突き出された鼻先には、人々の思いが宿っていた。残り数十メートルで外から並ばれたアイサンサンが、両耳を絞ってまた首を伸ばす。左手の手綱と右手のステッキで追った幸騎手は、頭を下げて祈るような姿勢でゴールへ飛び込んだ。

「分からなかったです。外からの勢いが良かったので…。もう1回、よく盛り返してくれました」

腹をくくった。大外枠からトップスタート。「主張してくる馬もいなかったので」。好位につける選択肢は捨てた。かつてG1制覇へ導いたアカイイトの全妹。果敢な逃げで、姉譲りの根性をフルに生かした。

4カ月前には生命の危機すら感じていた。昨年11月22日に京都で落馬。肋骨(ろっこつ)10本を折り、肺挫傷も負った。「死ぬのかなと思った」「このままやめようかという気になった」-。手術前後の8日間はベッドの上で動けなかった。同年8月にも右かかとを骨折したばかり。さすがの鉄人も「けがが続いて心が折れていた」と明かす。それでもわずか2カ月で馬上へ戻り、不屈の心で50個目のタイトルをつかんだ。

ベテラン50歳と喜びを分かち合ったのは、37歳で開業したばかりの橋田師だ。JRA初勝利が重賞という離れ業。祖父も父も調教師の3代目は「運のいい人生だと思います。人に恵まれています。(前走まで手がけた)佐々木先生にいい贈り物をいただいた気持ち」と感謝した。今後はヴィクトリアM(G1、芝1600メートル、5月17日=東京)も含めて検討される。さんさんと輝く笑顔の輪が、曇り空のウイナーズサークルを明るくした。【太田尚樹】

◆初勝利 橋田師はJRA9戦目で初勝利となった。初勝利が重賞だったのは史上5人目。また、開業から19日目でのJRA重賞制覇は、84年のグレード制導入以降で最速。75年には諏訪富三師が開業5日目(クイーンS=アンセルモ)で勝った例がある。

◆アイサンサン▽父 キズナ▽母 ウアジェト(シンボリクリスエス)▽牝4▽馬主 岡浩二▽調教師 橋田宜長(栗東)▽生産者 (株)サンデーヒルズ(北海道新ひだか町)▽戦績 12戦5勝▽総獲得賞金 9259万9000円▽馬名の由来 愛燦燦。深い愛情が太陽のように光を放ちながら全身に降り注ぐさま。