“ドーハの悲劇”を知る指揮官らしい、リアリズムに満ちたメンバー選考だった。30日、キリンチャレンジ杯パラグアイ戦(9月5日、カシマ)と22年カタールワールドカップ(W杯)アジア2次予選の初戦ミャンマー戦(9月10日、ヤンゴン)のメンバーが発表された。海外組は過去最多となる19人。森保一監督は“初のW杯ベスト8”という目標実現に向けた第1歩の試合に、経験ある面々をそろえた。「A代表の監督をさせてきていただいた中でベストなメンバー」と、うなずいた。

相手のミャンマーはFIFAランクで135位。アウェーとはいえ、同33位の日本が足をすくわれる確率は極めて低い。若手と主力を融合させ、経験を積ませながら勝利を手にするのも十分に可能だろう。

だが、指揮官はその選択肢を選ばなかった。15年の前回W杯ロシア大会アジア2次予選の初戦では、日本は格下のシンガポールにホームでまさかのスコアレスドローを喫した。自身も現役時代、次回W杯の開催地でもあるカタールの首都ドーハで初のW杯出場目前で地獄に突き落とされた。そんな日本サッカー界の苦い経験を目に焼き付け、心に刻んでいる森保監督には、過去を無駄にせず未来へと生かす資質が備わっている。戦術浸透度の高い常連組が主体のベストメンバーの名前がずらりと並んだメンバーリストから、無意識下で生じかねない隙まで完全に排除するという強い意志を感じた。初戦から厳しい姿勢で臨まないといけないという固い決意を見た。常々「W杯予選は甘くはない」と口にしているその言葉に、うそ偽りはなかった。

かといって、次世代メンバーの成長を度外視しているわけではない。「(W杯アジア2次予選で)やりたいことはいっぱいあります」と苦笑いすると、少しトーンを強めた。「しかしながら、私が考えているのは、これまでやってきたことのベースをチームとして常に確認しながら土台を大きくする、厚くする、高くするということをやっていければなと思います。あとは日本代表として招集させていただいている選手はみんないい選手ですし、力のある選手なので、このアジアの戦いを経験しながら、さらに成長するチャレンジをしてもらえれば、必ず良い結果は得られると思っています」。スペイン1部マジョルカの18歳MF久保建英やオランダ1部PSVの21歳MF堂安律を、移籍したばかりとはいえ呼び寄せた。まだ誰にも日本代表の座は確約していない、競争を勝ち抜いて自力で奪い取れ-。W杯予選の幕開けを告げる記者会見で、温和かつ柔和な表情の下に隠された勝負師の顔をかいま見た。【浜本卓也】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆浜本卓也(はまもと・たくや)1977年(昭52)、大阪府生まれ。03年入社。競馬、競輪担当から記者生活をスタート。静岡支局、K-1、総合格闘技、ボクシングなどを渡り歩き、直近はプロ野球を担当。18年12月にサッカー担当に復帰した。