日本サッカー協会(JFA)審判委員会の報道陣向け説明会「2019第4回JFAレフェリーブリーフィング」が先週末の13日、東京・本郷のJFAハウスで行われた。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が国内で初めて導入されたJリーグYBCルヴァン杯の準々決勝8試合(4、8日)を終えて、扇谷健司トップレフェリーグループマネジャー(48)が報告した。

6シーンがピックアップされた中、最後に時間を割いて説明されたのが、鹿島アントラーズ-浦和レッズ第2戦(カシマ)だった。2-2の後半45分、ホームでの第1戦を2-3で落としていた浦和が、もう1点を奪えば2戦合計5-5(アウェーゴール数も同じ)で延長戦に持ち込める、という状況。そこで浦和が猛攻を仕掛け、FW杉本が鹿島DFブエノにペナルティーエリアで倒された。しかし、笛はならず。佐藤主審も無線で情報を受ける動きをしていたが、地上のモニターで確認する「オン・フィールド・レビュー」には移行しなかった。

この場面、リプレーではPKでもおかしくないように見えた。しかし、主審は自らの目で映像を確認することはなかった。試合を見ている側のイメージとしては、こういったプレーを正確に確認するために、VARを導入したはずでは-。もやもやしたが、やはり決定権は主審にある。決然としていた。

公開された無線の交信録音によると、佐藤主審は杉本とブエノを背後のよく見える位置から追いながら「自分から行ってる」と叫んでいた。杉本が、右後方のブエノ側に右足を出して倒された、という判断だ。その後、VARの担当審判が映像で確認したところ、確かに杉本は右足をブエノのサイドに、出してはいた。

確かに、倒されにいったように見えるが、それ以上に、左足でシュートを打つために右足を踏み込んだ。シュート体勢を整えるために相手を制しにいった。ように見える。

ただ、判定するのはVARではなく主審。原則は変わらない。扇谷氏は「VARは、明白な間違いでなければ介入しないんです」と強調した上で「この場面はPKという審判もいるでしょうし、そうではない審判もいると思います。その割合は5対5なのか4対6なのか分かりませんが、今回の主審は白(ユニホームの杉本)が右に体を入れたことが、相手にぶつかっていった、と見ていた。そこはVARで確認してもギャップがない。もし白の選手が右に行かず真っすぐ行っていたり、仮定の話としてユニホームを引っ張られて倒れていたとしたら、相違が生じているので確認する可能性もありましたし主審のプレー中の判断説明と映像の動きが一致したので、これ以上、VARが介入することはありません。主審の判断。VARが自ら正しい判断をするわけではない」と主権を明確にした。

実際の現場も、このやりとりを終えた後に「オールOK」「チェック・コンプリート」等の声が出て、ファウルなしで再開されていた。佐藤主審は昨年のクラブワールドカップ(W杯)開幕戦などで既にVARの経験があり「非常に落ち着いていた」と扇谷氏は評価。「ちょっと待って」「後にして」との声も残っており、抗議しようとしてきた選手への対応もしながらVARの確認手順を踏んでいた。

VARが導入されても、あくまで主審の判断になることが再確認された。

小川佳実審判委員長(60)も補足し「アジアでは韓国、中国、オーストラリアが2シーズン、欧州ではドイツが2シーズン、スペインが1シーズンやって、ついにプレミアリーグ(イングランド)が今季から導入しました。しかし、開幕から4節が終わりましたが、オン・フィールド・レビューは1回もないんです」と明かした。

つかさどるIFAB(国際フットボール評議会)からも8月21日に通達があったといい「まずは主審の判定」「ベストな判定をVARが探しにいくわけではない」「安易にやってはいけない」などとリマインド(再確認)された。小川委員長は「原理原則を忘れずにということ。正しい判定かどうか、ではなく、はっきり明白な間違いかどうか。(映像を見ることで)ベストを求めにいきたくなるけど、使いこなしてサッカーをよくしたい」。J1リーグでは来季からの導入を目指している中、今後の有効活用と精度の向上を「トップレフェリーグループで共有しながらやっていく」と約束した。