もう風は関係なく速い。陸上男子100メートルで日本歴代2位の自己記録10秒00を持つ山県亮太(26=セイコー)が無風の条件下、10秒01を出した。2年連続で自己記録を出している相性抜群の大会での決勝。2位桐生祥秀(22=日本生命)に0秒21差をつけて3連覇を果たした。今季最終戦となる次戦は桐生が日本人初の10秒の壁を突破した「9・98スタジアム」(福井県営陸上競技場)で実施される福井国体(来月6日)。日本人2人目の9秒台スプリンターの予感が漂う。

記録への渇望がフィニッシュラインを越える姿に表れていた。いつもは体勢をほぼ変えない山県が胸を突き出した。追い風が吹かなくても、日本歴代5位タイのパフォーマンスとなる10秒01。28日前のジャカルタ・アジア大会決勝で10秒00を出しているから驚きはない。それどころか「100分の2秒足りなかった。9秒台を狙っていたのでちょっと残念」とまで言った。

必死に胸を前に出したのには裏がある。アジア大会男子200メートル決勝で慶大の後輩・小池がフィニッシュ後に倒れながらの金メダル。執念を見た。公式記録上は同じ10秒00でも、銀のT・オグノテ(カタール)に0秒002差で敗れ、銅だった山県は「この差で負けたんだな。それで何か変わるならば。また10秒00で走ってしまうと悔しいので」。少しでも記録が上がるなら、泥くさくていいと思った。

これで自身13度目の公認記録での10秒0台。うち10度は16年5月から。しかも10秒05以上の6回すべてが、追い風1メートル未満だ。「神様が出していいよと言うまでは出ないのかなと」と苦笑いするが、強い追い風さえ吹けば、9秒台に突入する次元にある。練習はすべての走りを動画で撮影し、すぐに確認。感覚だけに頼らず、理詰めで修正点を探すから安定感がある。この日も取材を終えると、20分以上スマートフォンでレース動画を見る姿があった。

今季最終戦の福井国体は「桐生君が記録を出したお墨付きのスタジアム。9秒97を目指したい」と言う。自身初の9秒台の先にある日本記録更新を見据えた。【上田悠太】