【ソウル9日】羽生結弦(25=ANA)が4度目の出場で初優勝し、男子初の主要国際6タイトル完全制覇「スーパースラム」を達成した。

フリーは4回転ルッツで着氷ミスが出るなど187・60点にとどまったが1位。世界新で首位発進したショートプログラム、111・82点との合計299・42点で完全制覇した。今大会から戻した18年ピョンチャンオリンピック(平昌五輪)金メダルのプログラム「SEIMEI」を進化させた令和版に、今後はクワッドアクセル(4回転半)を加える準備をしていくと明言。3月の世界選手権(カナダ・モントリオール)で王座奪還を狙う。

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羽生が男子フィギュア界を完全掌握した。世界王者になった13-14年シーズン以降、最長ブランクに並ぶ3戦ぶりに表彰台の真ん中に跳び乗ると、右手を突き上げた。冬季五輪2連覇を遂げた韓国で、主要6冠のラストピースを獲得。16歳で4大陸の史上最年少メダリストになった11年は「東日本大震災の1カ月前だったんです」。9年後、ようやくスーパースラムが完成し「普通は五輪が最後なんだろうけど、なかなか勝てなかったのでホッとした。フリーのことは忘れて…SPが良かったので」と振り返り「ふふふ」と笑った。

言葉通り、世界新を出したSPから一転、フリーは苦戦した。演技前に氷がえぐられた穴を見つけ、審判に申告。「コンクリートが見えて気が散ってしまって」と集中が切れた。シニア転向後10季目で初めてシーズン途中に戻した令和版「SEIMEI」にも対応し切れず、ミスが頻発した。冒頭、現在最高難度の4回転ルッツ。平昌は右足首負傷の影響で回避した大技を解禁したが、手をついた。ルール改正で4分30秒から4分に短縮された分を削るため、3回転半の後「3歩4秒」の助走なしで跳んだ3回転フリップもエッジ不明瞭と判定された。4回転トーループからの連続も回転不足に単発止まり。「まだ4分のものを滑り込めていない」と課題を認めた。

それでも、SP曲「バラード第1番」を含めた五輪2連覇プログラムへの回帰に後悔はない。正月も帰国せずカナダで過ごし、悩んだ末の決断。バラ1は4季目、SEIMEIは3季目という異例の選択には羽生ならではの思考があった。

羽生 フィギュアスケートって毎年毎年、新しいものをやる。長くても2年。それは真理なのかな。SEIMEIがまさにそうだけど、伝統芸能…語り継がれるものは何回もやる。バレエもオペラも。そういう道で極めるのも自分かなと。

同じ演目は「めちゃくちゃ怖い」。比較対象が、生きる伝説の自分になるからだ。「それでも、その上に行くことを常に考えて」変えた。SPで自身の世界記録を更新したように、羽生が羽生を超えるためにSEIMEIを磨く。初めて選曲と編曲にかかわり、完成まで33度も作り直して「子」と呼ぶ曲。そこに前人未到の4回転半を投入する。

1カ月後の世界選手権へ「壁は高いので確証はないけど、やるつもりではいる」と明言。カナダに戻って回復し次第、練習を再開する。完成度も「バラ1のようにシームレス(継ぎ目なし)」になれば完全無欠。究極のSEIMEIで世界一に返り咲く。【木下淳】