日本競泳チームの主将、鈴木孝幸(34=ゴールドウイン)が、日本に今大会初の金メダルをもたらした。男子100メートル自由形(運動機能障害S4)で1分21秒58の大会新記録で逆転優勝。前日の50メートル平泳ぎの銅メダルに続いて、通算7個目のメダルを手にした。日本勢が頂点に立つのは2012年ロンドン大会以来9年ぶり。男子400メートル自由形(視覚障害S11)では初出場の富田宇宙(32=日体大大学院)が4分31秒09のアジア新記録で銀メダルを獲得した。

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残り10メートル、鈴木は疲れの見えるイタリア選手をとらえ、一気に抜いた。自己ベストに0・05秒と迫る好タイムで金メダル。肘から先がない右腕を何度も水面にたたきつけ、指が3本の左手を突き上げた。鈴木にしては珍しい派手なガッツポーズ。日本人の美徳を理由にあげて「やりすぎました。反省しています」と言うのも、鈴木らしかった。

前日の平泳ぎも入れてパラリンピックで6個のメダルを獲得しているが、自由形は初めて。18年に自身のクラスがS5から1つ障がいの重いS4に変わった。予選では世界記録を持つダダオン(イスラエル)がフライングで失格した。「何が起こるか分からない。この5年間、自分がコントロールできることにベストを尽くそうと取り組んできたおかげ」と胸を張った。

08年北京大会以来の表彰台の真ん中。13年ぶりの感激は「何も思わなかった。考えてもいなかった」と言った。「涙? 気のせいですね」と素っ気なかった。英国に渡って10年近く、競技とパラスポーツの研究に没頭する鈴木は自分を冷静に分析し、それを言葉にする。「このメダルは、ここまでの積み重ね。取り組んできたことの結果であり、進歩です」と、大事そうに胸の金メダルに触れながら話した。【荻島弘一】

◆鈴木孝幸(すずき・たかゆき)1987年(昭62)1月23日、静岡・浜松市生まれ。静岡・聖隷クルストファー高から早大-ゴールドウイン。6歳から水泳を始め、パラリンピックは17歳の時に04年アテネ大会に初出場。08年北京大会の男子150メートル個人メドレー金など4大会でメダル5個を獲得した。障がい者スポーツの普及活動にも積極的で、東京大会招致にも尽力した。117センチ、45キロ。

○…金メダル15個を誇る水の女王、成田真由美(横浜サクラ)が6大会目のパラリンピックに登場した。女子100メートル自由形(運動機能障害S5)予選は1分29秒48の全体9位で決勝進出を逃し、混合200メートルリレー(運動機能障害)もアンカーとして出場したが8位と0・09秒差の全体9位で決勝には進めなかった。それでも、残る100メートル平泳ぎ、50メートル背泳ぎに向けて「まだある。個人種目に悔しい思いをぶつけたい」と話していた。