格闘家転身から2カ月が経ちました。デビュー戦の日程も決まり、4月16日の格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT ~武士道~」に出場します。対戦相手などはここからですが、格闘家としてのスタートが決まったことに興奮しています。この大会のプロデューサーでもあり、出場を認めてくれた元K-1ファイターの小比類巻貴之さんに心から感謝しています。

僕には現在、小比類巻さんをはじめ、5人のパーソナルトレーナーがついています。現役K-1ファイターの愛鷹亮選手、元プロボクサーで「ストレッチマジシャン」の異名を持つストレッチ専門トレーナーの後藤俊光さん、Jリーガーを目指した時からお世話になっているスポーツジム「IWA ACADEMY」の田辺大吾さん、数多くのJリーガーやトップアスリートを見ている奥村正樹さん。そうそうたるメンバーに支えられています。格闘技ど素人の僕がリングでどこまで戦うことができるのか。それをその道のエキスパートと共に歩めていることが本当に幸せです。

僕がJリーガーになったのも、ヴィーガンになったのも、格闘家に転身したのも、全ては「人間の本質とは何か」という探究心からです。僕はリングで目の前の相手を倒したいのではありません。格闘技をやって強くなりたいわけでもありません。僕が格闘技をやっているのは、格闘技をすることで鍛えられる精神で固定観念を打破したいのです。

「人間にとって本当に必要なこととは何か」

行動や活動で本当に大切なことを示すために探究し続けていきたいのです。

先日、初めてのスパーリングを行いました。恐怖と興奮が入り交じったのを今でも鮮明に覚えています。そこから「死」に対する思考がより強くなりました。それと同時に「生」を強く意識するようにもなりました。死を意識すればするほど、生きていることの尊さを感じ、命のありがたみを実感します。今までの1分1秒が全く違う価値を持って動きだす感覚です。

怖くて足が震える夜もあります。それでも僕はその恐怖と向き合うことを忘れません。勇気とは、弱くて小さい自分を受け入れた上で、それでも立ち向かっていく姿のことを言います。実際の僕は弱くてビビりです。そんな自分を受け入れ、「それでもお前は立ち向かうのか?」という問いにうなずいて進んでいるだけです。

現代は私利私欲と損得にあふれています。僕自身、私利私欲や損得にあふれて生きてきた時もありました。だからこそ僕は今の自分を空っぽの状態にしておきたいのです。そのために格闘技で鍛錬を重ね、精神を鍛え、私利私欲と損得に流されず、100年先までこの生き様を継承したいと思っています。

試合ではもちろん勝利を目指しますが、僕の思いとしては、結果ではなく、そこに挑む姿を見てもらいたいです。誰に何を言われようと、やるべきことはひとつです。相手の想いを拳で感じ、相手の生き様を受け止める儀式が試合なのです。社会の中で自分をどのように考えてきたのかを拳を交えることで伝え合いたいのです。

リングは僕にとって同志を見つける場所です。「死」というものを身近に感じるからこそ、命の尊さを再認識し、生きている間に何を残せるのかを生き様で示していきたいと思います。4月16日、デビュー戦に臨む僕の姿をぜひ多くの人に見ていただきたいです。

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結ぶも開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退した。同年12月には初の著書「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小学館)を出版。オンラインサロン「Team ABIKO」も開設した。175センチ、74キロ。

Jリーガーから格闘家へ転身後の初練習で汗を流す安彦
Jリーガーから格闘家へ転身後の初練習で汗を流す安彦