ユベントスは高リスクでもあったポルトガルのスーパースター、クリスティアーノ・ロナウド(33)を、異例の長期にわたる契約を提示して獲得しました。チャンピオンズリーグ(CL)優勝を目指すチームのプロジェクトを達成するためであることは明確でした。

昨年6月の決勝でなすすべなく1-4で敗れたイタリア王者でしたが、対戦相手のスター選手を引き抜く手法は非常に理にかなっているとも考えられます。今回はこのビッグディールの裏側に存在する移籍金のお話にフォーカスを当てたいと思います。

今から約20年前のことです。フランス代表がジダンの活躍によってワールドカップ優勝を手にしたのが1998年。98年といえばブラジル代表がナイキのユニホームを身にまとい登場した記念の年でもあります。そんなブラジル代表でもまだナイキのスパイクは4、5選手しか着用していなく、決勝のスターティングメンバーにおいてはフランス代表が全員アディダスを着用していたことが印象に強く残っています。

一方CLではメンディエタを中心としたバレンシアが2年連続で決勝に進出するなど(ともに準優勝)スペイン・サッカーが台頭してきており、レアル・マドリード、バルセロナとともにに市場を賑わせていた、そんな時代でした。

その最中、移籍市場を大きく揺るがす事件が起こりました。当時のポルトガルのスーパースター、ルイス・フィーゴがバルセロナから宿敵のレアル・マドリードへ移籍しました。世界的なライバルチームへの移籍だけに、まさにそれは禁断の移籍でした。しかしながら実はこの裏では鍵となることが起こっていました。

皆さまもご経験がおありになる方がいらっしゃるかもしれませんが、クレジットカードでの分割払いが続いてしまうとどうなるか。徐々に返済が滞ってきます。そして収入があってもその大部分が返済に充てられてしまい「首が回らない」状態になります。まさにこの状態がクラブ単位でまん延しておりました。

つまり、選手の移籍金を分割払いで対応することが常となっていた、そのようなマーケット状態において、各クラブが財政面で苦しくなり始めており、銀行からの借り入れも厳しくなり始め、借金だらけで長期にわたる負債が重なった状態のクラブが増え始めていた、そのような状況でした。

しかしそのような中、この状況を打破するためにスペインでは法律的な規制が入りました。つまり分割払いではなく一括払いでの支払いをベースとするようにするというメスが入り、そしてそのまさに一発目がフィーゴの移籍であったと言われています。

一括払いによって起こりうることはその金額の捻出という部分のハードルもありますが、何と言っても財政面の健全化が図れる、という部分にもつながります。

また、移籍金に関する部分でもう一つ鍵となることがあります。移籍金を発生させるディール(取引)であるかどうかという部分です。

つまり、契約が終了して移籍すると、契約破棄に伴う移籍金は発生しません。当然クラブは移籍金を支払って獲得した選手は移籍金を発生させてクラブを出ていってもらわないと、その分損失を被ることになります。

今夏、チェルシーからレアル・マドリードに移籍したGKティボ・クルトワ選手(26)は家族の問題もあって、どうしてもマドリードでの生活を望んでいたと聞いています。この場合、チェルシーはこの夏に売却しなければ(冬の移籍市場はメインではないため、この場合は今夏にディールを決めようとした)来年の夏の移籍となってしまうと移籍金が発生することのない“フリー・トランスファー“でクラブを去ってしまうことになります。どちらがクラブにとってプラスか?と考えると自ずと答えは出ますよね?

同様にロナウド選手も、マンチェスターUからレアル・マドリードの移籍金が約120億円と言われていましたから、今回のユベントスへの移籍が150億円と言われていることを考えると、“売れるうちに売った“という考え方ができます。

なぜこのタイミングでの移籍なのか? なぜこの金額なのか? という部分を深掘りしていくと、少し見方が変わるかもしれません。

次回はこのファイナンス面に焦点を当て、FIFAの定めるファイナンス・フェアプレーにフォーカスしてみたいと思います。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)