これまでFIFAファイナンシャルフェアプレー(以下FFP)の導入が及ぼしている影響についてお話ししてきました。今回は先日、マドリードで行われたリベルタドーレス杯決勝の出場チームについて見てみたいと思います。

まず、クラブのスペックを簡単に見てみたいと思います。

ボカ・ジュニアーズは1905年に創設されたブエノスアイレスのラ・ボカ地区に本拠地を置く総合スポーツクラブです。サッカー以外にバスケットボール、フットサル、柔道、テコンドー、空手、レスリング、バレーボール、器械体操、新体操、競技エアロビクス、水泳、重量挙げのチームを所有。スタジアムは約4万9000人を収容するラ・ボンボネーラで南米選手権を過去6度制覇。あの“神の手”ことディエゴ・マラドーナなど多くのレジェンドを輩出しており(日本人では高原直泰がプレー)、MLSに参戦を検討するなど世界中にクラブ支部を設けています。

メインスポンサーはカタール航空とAxionという燃料の会社、AXEというデオドラントのブランドそしてユニホームサプライヤーのナイキ。財務状況としては2017年の時点で約54億の売り上げがあり、支出が約42億円。約12億円の黒字決算であるとクラブは発表しています(このうち75%である約9億円が選手売却利益、残りの25%、約3億円がマーケティング利益)。特筆点として、4月に新トレーニング施設をオープンしており、11面にもなるサッカーコートにジム、メディカルルーム、食堂やビデオ室、オフィス、倉庫などを新設しています。

リバープレートは1901年創設のブエノスアイレスの北端ヌニェス地区を本拠地とするこちらもボカ同様総合スポーツクラブになります。(バスケットボール、バレーボール、陸上、水泳、体操、ウオーターポロ、テニス、ボウリング、チェス、グランドホッケー、スケート、テコンドーなどのチームを所有)。ホームスタジアムは隣のベルグラーノ地区にある約6万2000人というキャパシティーを誇るエル・モヌメンタル・スタジアムです。

メインスポンサーは中国企業・ファーウェイとユニホーム・サプライヤーでもあるアディダス。経済面では、近年赤字が続いていたものの、昨シーズンは約30億円を超える黒字を計上。利益面では約8億円前後を計上しているようです。

ボカの54億円の売り上げという部分で見るとJリーグではフロンターレ川崎や鹿島アントラーズが約50億強の売り上げを記録していますから、非常に近しい規模になります。大きく違いが出ているのは利益です。Jリーグのクラブは1、2億円ほどの利益しか出ていないケースがほとんどです。一方でリバープレートの30億円クラスだと、Jリーグで25億から35億円の間にある広島、鳥栖、仙台、札幌などと同じ規模感になります。

ここで注目したいのは、ボカとリーベルは赤字状態にあっても選手を売却することですぐに数字を作り出すことができるということです。事実、赤字が出た年の翌年はすぐに黒字に戻すというような事が続いているようでした。下部組織が充実していることから、代わりの選手はいくらでも下部組織から這い上がってきます。そしてトップクラスの選手に取って代わるレベルの選手も多く下部に保持しています。この違いがクラブ運営のファイナンス面のベースを支えており、そのようなクラブが南米を制してしまうほどのトップチームを創出しているということがある種南米の強さであり、魅力であるかもしれません。

日本のクラブに必要な部分はこのような下部組織とトップチームの関係性かもしれません。ヨーロッパや南米の多くのクラブチームの下部組織は、ほとんどのクラブにおいて生活が保証され、さらに多くのチャンスが与えられる環境にあります。日本のクラブがそのようなチャンスや希望に満ちあふれる組織になって行くことがこれからは求められるような気がします。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)