今回のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で良い意味で大方の予想を裏切ったオランダのアヤックス。これぞクライフ・フットボールという一面を見せつつも、準決勝で惜しくも敗退。育成に力を注ぎ、大金をかけて名前のある即戦力選手を獲得はしないなどと言われる、クラブの懐事情を今回は探ってみたいと思います。

チーム自体は1900年に設立され、オランダリーグ・エールディビジでの優勝回数に最多の26回を誇る名門です。今回ベスト4に大躍進したCLは、ミケルス体制時代の3連覇を含む合計4回、そしてインターコンチネンタルカップも2回優勝しており、リーグ優勝10回のフェイエノールト、21回のPSVと共に、オランダリーグを代表する強豪クラブです。

特に1985年にヨハン・クライフのテクニカルディレクター就任と共に設立されたアヤックス・ユースアカデミーは世界的な名選手を生み出すレベルの高い組織とされており、多くの名選手を生み出してきました。

そんなオランダの雄・アヤックスですが、売上という部分では2016/17シーズンに約1億1800万ユーロ(約150億円)を、2018年には約9200万ユーロ(約115億円)を記録しました。オランダリーグで最も売り上げを記録したチームとなっておりますが、4大リーグのトップチームの1000億円近い数字と比べると非常に小さな数字に見えてしまいます。さらには、デロイト社によるとヨーロッパのトップ30にすら入っていないということで、オランダリーグの現状をここから読み解くことができるかと思います。

その売り上げのうちの利益に目を向けてみると、2016/17シーズンの税引前利益は6700万ユーロ(約83億円)、2017/18シーズンは200万ユーロ(約2億5000万円)とリポートされており、税引き後で見ても2016/17シーズンは5000万ユーロ(約62億5000万円)、2017/18シーズンは100万ユーロ(1億2500万円)と記録されております。大きく額に差がありますが、これは主にプレーヤーの売却による売上利益が7900万ユーロ(約98億7000万円)から3900万ユーロ(約48億7000万円)に減少したことによるものとリポートされておりました。まさに2016/17シーズンはフェイエノールトに、2017/18シーズンはPSVに優勝を持って行かれており、今シーズンは4シーズンぶりの奪還となっておりましたが、経営陣からは大きく尻をたたかれての優勝であったことが考えられます(もちろん今シーズンのチャンピオンズリーグの大躍進で大きくカバーされました)。

このクラブは冒頭に高いレベルの選手を輩出すると述べましたが、これは言い換えるとダイヤの原石を安く仕入れ、磨いて高い値段をつけて売りさばくことで成り立っているとも言い換えることができます。その証拠に、2016/17シーズンは7900万ユーロ(約98億7000万円)の選手売却利益を出したとありましたが、ナポリへミリークを売り、エバートンにクラッセン、バルセロナにGKシレッセンを、さらにはウォルフスブルクにバズールを売却。ちなみにその翌年記録している3900万ユーロ(約48億7000円)は2018年W杯で日本戦にも出場したコロンビア代表のダビンソン・サンチェスをトッテナムに売却した売却益になります。

4大リーグの大きな収益となっているのが放映権ではありますが、オランダリーグの放映権が世界的に高値で売れているとは言えず、リーグそのものの収益にも大きく影響していることを考えると、なんとか選手を育て上げて売りさばくそのやり方は一縷(いちる)の望みに賭けた最後の手段になっているのかもしれません。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)