スペイン市場は例年になく大きな動きを見せました。2000年代に入ってバルセロナ、レアル・マドリードを中心としたスペイン勢が支配してきたと言っても過言ではないヨーロッパサッカー市場において、チャンピオンズリーグの連覇が3で途切れた(声を大にして3連覇前はベスト4でその前に優勝しているから実質5シーズンにわたったレアル・マドリードの支配であったと言いたい)だけでなく、この間にレアル・マドリードはそれまで中心となって活躍してきたエースのクリスティアーノ・ロナウドを手放しました。バルセロナのメッシもついに30歳代を迎えるなど、そろそろ次の動きが起こってもおかしくはありません(当然起きてはいるので、近日この部分に触れることにしましょう)。

そのような中、新しい時代を作り上げるべくレアル・マドリードも生まれ変わりを見せつつあるのですが、先日公式的に2018/19年度のクラブの売り上げが発表されました。今回はこのレアルのクラブの数字についてみてみたいと思います。

クラブによると今月の15日に総会が行われ、そこで報告される内容ではある様子ですが、2018/19シーズンの営業収入が7億5730万ユーロに達したと発表がありました。1ユーロ=123円換算で931億4790万円という大きな数字になります。この数字は選手の移籍金は含んでいないということなので、こういったところからレアル・マドリードは選手の移籍金は1つの事業部として見る様な形で管理しており、マーケティング収益と混ざらない様に管理していることも受け取れるかと思います。

この営業収入は前年度0.8%増ということですがこの2、3シーズンは毎年の様に5~6%プラスを計上していたことからすると物足りない結果となりました。これはCLの敗戦によるものになります。リーガ・エスパニョーラではハビエル・テバス会長の意向により、リーグとCLの放映権収入がここ3年間実質的に固定されており、多額の放映権分配の恩恵を受けているイングランド・プレミアリーグのクラブよりも受け取る金額がはるかに低いという背景がありながら5~6%増の数字をたたき出していることを考えると、その営業力はとんでもないものに感じます(スペインでは本当に仕事そのものが少なく、フットボールという確実的要素が少ないコンテンツでビジネスを組み立てることの難しさが前提であれば余計にその難しさを感じます)。

EBITDAと呼ばれる、いわゆる税引前の利益に支払利息や減価償却費を加えて算出される利益は前年より19.8%増の1億7630万ユーロ(約216億円)を計上。国によって金利水準、税率、減価償却方法などが違うために日本でのEBITDAと単純比較することは難しい部分がありますが、それでもここからはじき出される利益額は税引前利益で5350万ユーロ、税引き後の数字で3840万ユーロ(約47億円)にもなります。昨年の夏にロナウドが移籍したにも関わらずストライカーを補強できなかったのは、ここからみてもわかる様に昨今の高騰した数百億円近い移籍金を一選手に支払うことは到底できる状態ではないことが読み取れます。アトレティコが支払った150億円のようなディールを取りに行くのではなく、まずは経営の基盤をしっかりと保持させる、つまりクラブとして負債を抱えない経営を目指し、実践することでEBITDAの負債の比率と資産の価値・ゼロをキープする、これがクラブ・一企業として最大の支払い能力を保持していることを示す、という経営陣の手腕が反映された形となっています。

来季からはレアル・マドリードの女子チームが発足します。それに伴いローカルチームのC.D.タコン・デ・フットボール・フェメニーノを、事実上2020年7月1日から吸収合併することも決まっています。その営業数字はさらに伸びることに期待が持てますが、同時にスタジアムの建て替えも控えており、まさにお金を回しながらクラブを成長させていくということになるかと思います。

ちなみにですが、2019/20シーズンの目標は固定資産処分前の8億2210万ユーロ(前年比101.1%)、税引前利益として4140万ユーロ(前年比82.4%)となっており、このままでいくと違約金を支払っての大型補強は当分控える方向にあると感じます。

リーグとしての構造改革の余波をもろに受けている立場からすると、ますます競争率が激しくなってきているリーガの上位を常にキープすることがどれだけ大変なのか。営業収入はありますが、上記のようなことを考えると現時点では選手を買いまくるほどの金満クラブではありません。

とはいえ、リーガの上位をキープし続けるというプレッシャーを背負う選手たちの中に、若き日本の至宝が存在しているだけでもとんでもないことなのではないでしょうか。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)