今まで各チームの財務状況を見ながら、市場の中でどのような動きをしているのかなど見てきました。今回は少し目線を変えて見たいと思います。

先日、ユベントスの胸スポンサーでもあるジープが近年のトップチームにおける素晴らしいパフォーマンスを理由にスポンサー価格を大幅に増加させ、これまでの20億円に30億円をプラスし、合計50億円になると発表がありました。まだまだクラブのサイズでいけば前回述べたように世界のトップクラブと肩を並べるほどの大きさではないことを考えると、非常に大きなステップアップになると考えられます。

今回はこのスポンサーシップの考え方をレアル・マドリード流に考える経営という視点から見てみたいと思います。


当たり前にはなりますが、経済の原則としてお金はあるところからないところに流れます。むしろ流さなければなりません。スポーツの世界でこれを考えると、“お金がないところ”というのがクラブであったり、協会などの組織であったりと捉えることができます。それではクラブはどこからお金を引っ張ってくるのかというと、“お金のあるところ”になるわけなのですが、それは一体どこなのか?ということになります。

地球規模で見てみれば、GDPという指標から考えると、米国、中国、日本という国々がトップ3にあります。このGDPは国内総生産と呼ばれ、簡単に言うと、その国の人々が1年間に稼いだお金の総額とも言える指標の1つです。このGDPは国民の数に影響を受けやすいということもあり、単に国のGDPが高ければお金があるのかと言うとまたこれは少し違うのかもしれません。しかしその国がお金を稼いでいると言うことには間違い無いと思います。

さらにこのGDPをその国民の数で割った数値、つまり1人当たりのGDPを見てみると、その国民の所得・消費が高いとも言えます。これを見てみると日本の1人あたりのGDPは約3.9万ドルとされており、トップ10にも入っていません(2018年の統計を見ると、ルクセンブルクがトップで、スイス、マカオ、ノルウェーと続き、アジアからはマカオ、カタール、シンガポールと3カ国が入っています)。

個人の所得が高ければ、当然余暇産業と言われるエンターテインメントに費やされるお金の費用も高く、これがプレミアリーグの高額な放映権料を支えるアジアンマネーであったり、アラブ圏のスポンサーによるアラビアンマネーということになります。

そんな中、サッカー界のスーパースターであったデービッド・ベッカム氏が米フロリダ州マイアミにサッカーチームを立ち上げ、本格的にサッカー市場に参入するという報道がありましたが、なぜマイアミだったのでしょうか?

もちろんそれはお金があるから、お金が集まりやすいからということになります。世界の富裕層が集まるフロリダ州。タックスヘイブンの地でもあるケイマン諸島が目の前にあり、日本の佐渡ケ島の30%ぐらいの諸島に法人6万社が登録されているというほど、お金が集まっているところでもあります。

実はこのフロリダという土地はスペインと非常に深いつながりがある地域でもあります。今から500年近く前になりますが、初めてコロンブスがアメリカ大陸を発見して以来、スペイン人が統治したのが始まりでした。その後イギリスにその権利は奪われるわけですが、ここで大切なのは英語・スペイン語という考え方です。

イングランドのプレミアリーグからしてみると、英語圏でありながらスペイン語を駆使する人々がそこに居合わせると見えます。スペインのリーガからみると、英語圏でありながら、実際のところスペインにルーツがあるという人々が多く住むところとも見えます。

こう言った背景から、必ずシーズン前の大会ではプレミア勢、リーガ勢がマイアミで試合を行うと考えられます。富裕層に対する税率が低く(富裕層が多く居住し)、すぐ横にタックスヘイブンの地があり、そして英語圏・スペイン語圏の両者が入り交じるこの地こそ、どのフットボールクラブもマーケティング戦略上攻略しておきたい地域としても過言ではないと感じます。


ベッカム氏がオーナーになったマイアミのチームに話を戻しましょう。基本的にヨーロッパのクラブはチームの所在が先で、そこにスポンサーを持ってくるということをしなければなりませんから、当然ですが、スポンサーがつきにくいクラブも多数存在します。

しかし、今回のベッカムのように、どこかに新しくチームを作り、それが所在地から自由に設定できるとなれば、当然ですがお金が集まりやすいところを選ぶというのはもちろんことごく「当たり前」の行為であると言えます。チケットの収入、スポンサーの獲得など、スポーツに対してビジネスとしての魅力が非常に高いとされているアメリカ。特にこのフロリダ州はそのアメリカの中でも若干特徴的にお金が集まっていたり、ある種さまざまな要素がそろっている地とも言えます。

レアル・マドリードVSバルセロナのクラシコが欧州のシーズン前に毎年マイアミで行われる理由はここにあると考えられます。2017年7月29日にマイアミ・ドルフィンズの本拠地、ハードロック・スタジアムで行われたプレシーズンのクラシコでは6万枚以上のチケットが発売直後に売り切れ、とても大きなインパクトを残しました。

よくよく考えてみると、大人数の観席を保持しているアメリカンフットボールのスタジアムがすでに存在しており、それに対するインフラストラクチャーはすでに整っています。そのようなところに世界最大級とされるコンテンツが持ち込まれるようなことがあれば、当然それは大きな結果をもたらすに違いありません。

ちなみにですが昨年の夏にマイアミで行われたクラシコの最高チケット設定金額は約50万円だったのにもかかわらず、すぐに完売したとか…。オーナーがベッカム氏とはいえビジネス面をしっかりと固めた手堅い経営手腕による計画に感じます。

MLBのヤンキースで松井秀喜氏の元チームメートであったデレク・ジーター氏が新たに投資しているのもマーリンズで、こちらもフロリダのチームです。多くのレジェンド選手が集結している場となればより一層の盛り上がりが期待できますから、さらなる投資を募ることができるのでしょう。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)