人それぞれ見解があると思うが、お笑い芸人の面白さとは、意表をつくオチを、素早くかつ、的確にテンポよく放り込んで行けるセンスだと、個人的に思っている。

 J2札幌に、DF進藤亮佑という19歳の若者がいる。2月28日開幕東京V戦でデビュー。13日愛媛戦まで3戦連続フル出場と、3バックの主力として、ここまでチャンスをものにしている。

 DFとしての安定感は当然だが、1番の武器は、ずぶといメンタルとコメントのキレ。ルーキーイヤーの昨年8月、天皇杯1回戦でプロ初ゴールを挙げお立ち台に上がった。クールダウン中の先輩から「よしお!よしお!」といじられたが、ひるむことはなかった。「だれが、よしおや。確かに小島よしおに似てるけど、コンサドーレ札幌の35番進藤亮佑です」。緊張感の中、小気味よく切り返し、自己紹介につなげた。

 雪国札幌恒例の長期キャンプを終え7日、52日ぶりに札幌・宮の沢での練習再開時は「甘い香りに、帰って来たんだなぁと感じました」と表現した。隣接するスポンサー石屋製菓の工場から流れ来るお菓子の香りを例えに出した。本拠地に帰ってきたかを伝えるには、何を言えば効果的かを知っているし、それを、考える間もなく発信できる。

 札幌白石高の同級生に15年度のジュノンボーイに輝いた飯島寛騎がいる。友人でもある飯島について聞くと「推薦者がいたら、僕が(ジュノンボーイに)なってたんですけどね。まあ、サッカーで追い抜きますよ」。すごいですね、刺激になりますよ、というありきたりな返しは、しない。

 若い選手に取材すると、えてして監督やコーチの指示や教えを、言葉もそのままに口にする選手がいる。確かに経験豊富な年長者の言葉は深く、頭に残るのもわかるし、聞かれたことに素直に答えると、結果的に、そうなってしまうのかもしれない。だが、何人も同じチームの選手を取材していると、あれ?このコメント、誰かと同じだったなということも多々あり、そうなると、発言者たるゆえんは、どうしても薄くなる。

 人の言葉というのは個性だと思う。文法や使い方が多少怪しくても、個性的な表現を用いる選手は耳に残るし、なんとか記事にしたいという欲求にかられる。

 12年まで札幌に在籍していた元日本代表の中山雅史氏(日刊スポーツ評論家)が、カズ擁する横浜FC戦前の練習後、自動販売機で飲料を買おうとしていた。「ゴンさん、これ飲んだら勝てるんじゃないですか」と、カズが当時CM出演していた「デカビタC」を勧めてみたことがあった。「これ? これ飲んだら、俺がのまれちゃうでしょ」。とにかく、早く的確に軽いオチを付ける才能は、天才的だった。雪の残る3月に札幌の練習場を訪ねてきた岡田武史氏に「ゴン、寒さに鍛えられてるんじゃないか」と聞かれたときには、すかさず「いつもアイシングできていいですよ」と返していた。

 プロはピッチで結果を出せばいいという考えも一理ある。ただ、人気商売のサッカー選手という職業の中には、19歳ながらコメント1つにこだわる進藤のようなタイプがいてもいい。中山氏を超えるメッセンジャー資質は、十分備えている。守ってよし、しゃべってよし。ポジションも名前も違うが、是非「ゴン2世」と呼ばれるような大選手になってほしい。

 ◆永野高輔(ながの・たかすけ)1973年(昭48)7月24日、茨城県水戸市生まれ。両親が指導者だった影響で小5からフェンシングを始め競技歴15年。早大フェンシング部で一度、現役引退し、00年に再起してサラリーマン3年目の27歳で富山国体出場。09年から札幌担当。