現役最後の日、川崎フロンターレの中村憲剛さん(40)は特別なスパイクに足を通した。元日の天皇杯決勝、G大阪戦。ベンチで歓喜の瞬間を迎えた中村さんは、真新しいスパイクでセレモニーに臨んだ。学生時代から愛用するミズノのスパイク「モレリア2」は、モノトーンの配色で知られるが、節目の日に中村さんの足元を彩ったのは、水色と黒、クラブカラーのモレリア2だった。これまでの感謝と今後へのエールを込めて、ラストマッチ3日前にミズノから贈られた一点物だ。

昨年11月の引退会見で、中村さんは「背番号14とモレリア2は僕の代名詞」と言った。「究極、はだしがいい」と言うほど素足感覚を大事にしており、キックの感覚がダイレクトに伝わるところがお気に入りだ。黒いモレリア2を選ぶのも同じ理由で、白い塗料で色づけされたものだと、わずかな重さの違いを感じてしまうという。

川崎Fが初優勝した17年からシューズ企画を担当するミズノの陳さんは、感覚のとぎすまされた中村さんと二人三脚で、モレリア2の改良に取り組んできた。スパイクは職人手作りのため、わずかに個体差が生じてしまう。「すぐに試合で使えるものと、練習で慣らしてから使うものがある」という中村さんの話にヒントを得た陳さんは、商品ごとの差を減らすべく木型を改良し、細かいパーツも1つ1つ作り直した。素足感覚をより追求したスパイクに足を入れた中村さんは、「全然違うね」とすぐに違いを実感したという。18年にはこのスパイクで連覇を達成。繊細な感覚をもつ中村さんがいたからこそ生まれた一足は、20年から一般向けにも販売されている。

学生を含む選手、チームまわりを担当する販促部の関根さんは、「高校の部活を訪問して黒いモレリア2を履いてもらうと、『俺こういう(中村さんのような)タイプじゃないけどな』と恥ずかしがる選手もいる」と話す。黒いモレリア2=中村憲剛=圧倒的な技術、とイメージが確立されているため、恐縮してしまう学生がいるというのだ。

中村憲剛といえばモレリア2、モレリア2といえば中村憲剛。2つのプロフェッショナルが、互いを高め合い続けた18年だった。【杉山理紗】