鹿島アントラーズがクラブ創設30周年を記念して製作したドキュメンタリーシリーズ作品「FOOTBALL DREAM 鹿島アントラーズの栄光と苦悩」(全8話)が、U-NEXTで、配信された。

日本サッカーリーグ(JSL)2部の「超」が付く田舎のクラブに、世界的スターのジーコが加入し、紆余(うよ)曲折を経て、町とともに20冠を達成する名門へと変貌を遂げる「奇跡」と「軌跡」が詳細に描かれている。

弱小クラブが、壁にぶち当たりながらも、逆転に次ぐ逆転で頂点へ駆け上がるサクセスストーリーは、個人的にはドラマ・日曜劇場の池井戸潤作品シリーズ(陸王、ルーズヴェルトゲーム、ノーサイド・ゲーム)を凝縮したようなエンターテインメント性とスケール感を感じた。もちろん、ドラマと異なり、悪徳企業や半沢直樹級の陰謀などは登場しないが…。

全8話、400分に及ぶ大作の製作にあたり、20年8月4日から21年10月2日まで1年以上にわたり、カメラがチームを密着取材。試合でのロッカールームや契約交渉などレアな場面も映像化されている。過去30年でクラブに携わった人物や対戦相手など約80人がインタビューに協力し、クラブの歴史を後世に残す上で、関係者の生の証言は貴重な資料にもなるはずだ。ストーリーも、成功部分だけでなく、過去の失敗や反省すべき出来事もしっかり向き合って描いており、より質の高いドキュメンタリーに仕上がっている。

鹿島の歴史はエピソードとしては知られているが、実際に90年代の映像を克明に覚えている人は少ないかもしれない。記者もその1人だ。世界的スターのジーコが、観客席も記者席もない、原っぱのようなグラウンドでJSLの舞台でプレーする映像には正直、驚かされた。現在に例えれば、メッシが日本の地域リーグに加入し、プレーするようなものだろう。ちなみに、作品に出てくるジーコの来日映像は、当時クラブとして在京の制作会社に撮影を発注していたもの。映像が後に、貴重な資料になると考え、当時から映像を自主財産として撮影し管理していたという。

鹿島のクラブハウスには「ジーコ・スピリット」(献身、誠実、尊重)の文字が掲げられている。この言葉の真の意味が、全話を通して見ることでより伝わってくる。ジーコは来日したころから、クラブスタッフにも「チームの勝ち負けには波があるが、どんな時も勝つことに全力を注ぐ姿勢に波があってはいけない。それは選手、トレーナー、スタッフ…、全員一緒だ」と説いていた。

ピッチで選手が、飽くなき勝利への執念を燃やして戦う姿はもちろん、ピッチ外でもクラブ、サポーター、地域が一体感を持って、チームを支える姿は、まさにジーコイズム。だからこそ、行政を巻き込んで屋根付きのスタジアムを短期間で建設し、「99・9999%無理」と言われたJリーグ参入を勝ち取り、Jリーグ初年度からタイトルを取り、20冠まで積み上げる奇跡を起こしたと言える。

製作を統括した神戸佑介氏は、作品に込めた思いをこう強調する。

「鹿島アントラーズというクラブは、常識にとらわれず、愚直に成功を目指して突き進んだ結果、FOOTBALL DERAMをつかんだ。そこには人の生き方の本質に近い、普遍的な価値があるように思いますし、その精神性を知ってもらいたかった」。また、夢を描く場所には人が集まることも挙げ「夢のあるプロジェクトがスタジアム建設を実現し、ジーコが来て、後に続くように優秀な選手たちが加入し、クラブの長年にわたる成功が生まれ、それが多くの人にとっての夢につながっている。これからも夢を追い求め続ける存在であり続けることで、それがサポーターやホームタウンの方々にとっての楽しみであり、この街を誇れる理由になればと思います」。

現在、クラブは5年間、国内タイトルから遠ざかり、苦悩の時代と言える。だが、過去の先輩たちも、大敗やタイトルを取れない悔しさを経験し、栄光を手にしてきた。今季は開幕ダッシュに成功し、間違いなく、タイトル奪還へ近づいている。鹿島の歴史を知る上で、サポーターはもちろん、若い世代の選手にも「鹿島のバイブル」としてお薦めしたい1本だ。【岩田千代巳】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)