浦和レッズが19日、ホームの埼玉スタジアムで行われたFC東京戦で2-1の勝利を収め、G大阪を抜いて7位に浮上した。中位からの巻き返しを図る重要な一戦で勝ち点3を奪った要因の1つには、荒天のピッチをいち早く掌握したスタッフの準備があった。

 キックオフ約1時間前の午後6時すぎ、雨が降り出した。あっという間にたたきつけるような雨になり、雷鳴が幾度も響く。試合は開始が2度も延期された。

 最初に開始時間30分遅延が発表された後のことだった。ウオーミングアップ開始の約20分前、大雨と稲妻が止まない中でピッチに1人のスタッフが現れた。浦和の天野賢一コーチだった。ピッチに準備されていたボールを蹴っては追い、また蹴る。約10分間で自陣内を一周すると、ロッカールームに戻っていった。

 天気は好転せず、さらに30分の遅延が発表される。さらにずれたウオーミングアップの開始約20分前、首にタオルをかけた天野コーチが再び現れた。やることは同じだった。

 ボールの転がり方を確かめていたのだという。確かに見ていると、天野コーチが蹴ったボールはセンターサークル内では水しぶきが上がってボールにブレーキがかかった一方、サイドのエリアでは滑っていた。「全部(のエリアで)止まっちゃうと思ったけど、意外とそうでもない」。状況を選手に話し、ウオーミングアップ時に確認するよう伝えた。司令塔MF柏木陽介は、センターサークルからサイドへのロングパスを確認していた。「サイドのエリアは滑るからゴロにした方がいいかなとか、いろいろ感じながらやっている。まだまだだけど」。試合ではサイドへ供給したパスでボールの跳ね方によるミスはなかった。

 ピッチを何度も確認したことついて、天野コーチは「勝つことから逆算すると自然とそう(確認することに)なる。プレーに直接つながるところですから。2回目(の中断)のあとは雨も弱まり、(ボールが止まっていた)真ん中も大丈夫だろうと選手と判断した」と話した。実際、中央でMF柏木とFW興梠慎三のパス交換から鮮やかな勝ち越しゴールが生まれた。

 本来、中央に水がたまることはピッチの構造上、考えにくいという。もともとピッチはわずかに円すい状に作られており、水はサイドに流れ出る仕組みになっている。だが、選手が多く行き来する中央エリアは踏まれることでへこみ、さらに芝の下にある土が水を吸収する力が弱まる。そのため、水がたまってしまうのだという。当然スタジアムによっても傷みが激しいエリアはまちまちで「ピッチを歩いて踏んでみたくらいではわからない」と芝の管理会社の関係者は話す。ホームスタジアムとはいえ、警報が発令されるほどの豪雨に見舞われたピッチでプレーすることはまれ。天野コーチのチェックは入念だった。

 試合までにある程度ピッチ状態は回復したが、DF遠藤航は「水たまりができているとか、事前に伝えてもらうと頭で準備ができる。だから『意外と大丈夫だった』と思える。ありがたい」と感謝した。試合だけでなく練習でも天候の変化によって先にピッチ状態を確かめる天野コーチは「いつからやっているかは覚えていません。普通のことですよ」と、穏やかに笑っていた。【岡崎悠利】