アルビレックス新潟の元日本代表FW矢野貴章(34)が、ジェフユナイテッド千葉戦で途中出場し、前線での体を張ったプレーで試合の流れを変え、チームを今季初の逆転勝利に導く“陰の立役者”となった。

 矢野は後半8分、FWターレスに代わってピッチに立つと、同11分に左サイドを得意のドリブルで駆け抜けてクロスボールを送った。ファーサイドに飛び込んだFW渡辺新太(22)にわずかに合わず、ボールがゴールラインを割ると、渡辺新に歩み寄り指示を送った。「(渡辺新は)ターレスの時は1つ、後ろに下がっていた(縦の関係)けれど(自分と組む時は2トップ、横の関係なので)前にもプレッシャーをかけろ。俺が下がるから、もっと前から行け」と声をかけた。

 それ以後、より前に出るようになった渡辺新が後半22、30分と連発し、チームは逆転勝ちした。渡辺新が、後半30分のダイビングヘッドでの決勝弾について「貴章さんも、その前につぶれて、ニアに(DFを)引っ張ってくれたので俺は触るだけ。貴章さんの引っ張りが全て」などと語ったと伝え聞くと「いい時に決めてくれたと思いますよ。難しい場面だったし、彼の前に行く勢いみたいなものが、すごく出たシーン」と笑顔でたたえた。

 この日はゴールこそなかったが、187センチの長身とジャンプ力を生かして空中戦を制し、前線で起点になり続けた。矢野にボールが収まることで、渡辺ら前線の選手にボールが渡る機会が増え、前線から献身的にボールを追う守備が、千葉のDFラインをさらに押し下げた。矢野が入り、流れは明らかに変わった。この日の勝利で、新潟は12位から8位に浮上し「みんな、J2での厳しい戦いを感じている毎日です。その中で勝つことが出来て良かった」と笑みを浮かべた。

 千葉とはJ2では初対戦だった。最後に戦ったのは、2009年9月12日にフクダ電子アリーナで行われたJ1の試合で、矢野のゴールで1-0で勝った。07年6月23日の試合では、日本代表の座を争ったFW巻誠一郎(現ロアッソ熊本)の前でゴールを決めて2-1で勝つなどフクアリで3得点、通算では両軍対戦の歴史で最多の4ゴールを決めている。

 矢野は、過去のフクアリでの戦いに話を向けられると「久々にジェフとやるので楽しみにしていました。すごい雰囲気のいい中でサッカーが出来るスタジアム。そんなこと(巻との戦い)もありましたね」と感慨深げに振り返った。そして「どっちも、ここじゃなく、もう1つ、上のところ(J1)にいなくちゃいけないチームだし」と振り返った。

 10年前のこの時期は、ワールドカップ南アフリカ大会出場をかけ、他の候補選手たちと生き残りをかけてしのぎを削っていた。あれから8年…ロシア大会の代表発表は31日に迫る中、矢野は人生で初めてのJ2での戦いの日々を送っている。「時は、たちましたね…でも、まだまだやれると思っています。頑張りますよ」。矢野の熱い目は、南アフリカを目指していたあの頃と全く変わりなく、光り輝いている。【村上幸将】