日本フットボールリーグ(JFL)の鈴鹿ポイントゲッターズによる「八百長未遂」は、今日26日に1つの結論が出る。Jリーグが理事会を開き、停止中のJリーグ準加盟に相当する「百年構想クラブ」資格の扱いを再検討する。その処分次第ではJ3昇格への道を絶たれる。

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処分対象となったのは20年11月29日のソニー仙台戦で、クラブ幹部による意図的な敗退行為の指示があった。国内サッカー界では前代未聞の事件はなぜ起きたのか? この出来事が示すものとは? サッカー元日本代表で海外事情にも詳しい藤田俊哉氏(50)、元柔道選手で日本オリンピック委員会(JOC)理事も務めた筑波大の山口香教授(57)に聞いた。【取材・構成=阿部健吾】

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藤田俊哉氏/元JFA欧州駐在強化部員

今事案は今後の日本のスポーツ界に押し寄せる波を考えた時に、サッカー関係者にいま1度、警鐘を促す意味を持つと考えます。

JFLの調査の結果、金銭を得るための目的はないとされています。あくまでチームの中長期的な戦略を念頭にした敗退指示であり、その指示自体に処罰が与えられています。

あえて負けを選ぶ。行為自体は、18年W杯で日本が取った判断と変わらないように映ります。決勝トーナメント進出をかけた1次リーグのポーランド戦、0-1の後半残り10分以上をほぼ自陣でのボール回しに終始。0-1で負けることにより、他チームの結果次第で16強入りの可能性が高い「負け」を選びました。

実際、スポーツでは敗退でより大きな利益を得る場面があります。鈴鹿の件との根本的な違いが何かと問われれば、明確に答えるのが難しい。

では、処罰の大小の是非を抜きに考えると、この一件の持つ潜在的な問題とは何か。それには、マフィアなどの外部団体の圧力で「八百長」につながる事例が多い欧州のスポーツ環境に、日本が近づいている事実から見る必要があります。

日本でもtotoがありますが、あくまでスポーツくじです。欧州は違います。オンラインのスポーツベッティングは、年々、市場規模を大きくしています。チーム単位の勝敗だけではなく、誰が得点を取るかなど、細分化された結果が対象になっています。ブックメーカーが胸スポンサーになっているクラブも多く、八百長事件でのリーグ降格やビッグネームの関与がうわさされることもあります。

近い将来、その環境は日本とは無縁でなくなるのではないでしょうか。世界的なベッティングでは、すでに日本のスポーツも対象です。現在は国内では違法ですが、特にプロスポーツで世界的な競争力を保つためには、資金力調達の手段として解禁され、近い将来に欧州型の環境が整備されていくとみています。

今回の鈴鹿の事例は、日本でも意図的な敗退行為が行える可能性を伝えています。今後、金銭が関わってくることを退けられるのか。その危険性を示していると思います。戦略的、戦術的な意図のすぐそばに、欧州的な「八百長」の世界が迫っています。

私が現役時代にJリーグの選手会長をしていた時代にも、薄給の韓国Kリーグの選手たちの八百長事件が起こりました。時代はオンライン化も進み、プレーヤー側の危険性はより増しています。例えば、欧州ではブックメーカー会社が胸スポンサーでも、キッズのユニホームには印刷しないなど、リスク管理が徹底されています。日本でも今回の件を1つのケースとして小さく捉えず、来たるべき未来を視野に入れながら、各クラブ、選手が当事者として見つめることが必要です。

◆藤田俊哉(ふじた・としや)1971年(昭46)静岡市生まれ。清水商高、筑波大から95年に磐田入団。01年にはJリーグMVP。12年に引退。オランダVVVのコーチやリーズのフロントスタッフ。18年から昨秋まで、日本サッカー協会(JFA)の欧州駐在強化部員として日本人選手のサポート、欧州クラブとの橋渡し役も務めた。元日本代表。

 

◆敗退指示の背景 16チームが参加したJFL20年シーズンは、前半戦はコロナ禍で公式戦が行えず、後半戦15節(第16~第30節)だけが実施された。最終節を残し、J3ライセンスを持たず、昇格も降格もない鈴鹿にとっては「消化試合」だった。

J3ライセンスを保持するテゲバジャーロ宮崎、この時点でJ3昇格が決まる4位以内が確定。ほかにいわきFC、ヴィアティン三重、FC大阪が最終節の結果次第でJ3に昇格できる可能性があった。

鈴鹿も翌シーズン以降のJ3昇格を目指しており、先に複数チームに昇格されるのは望ましくない上、特に同一地区で利害関係がかぶってくるV三重に先行されるのは避けたかった。

ビジネスの世界には「戦わずして勝つ」という言葉があるが、ここで鈴鹿が負けることでソニー仙台、ホンダFCが4位以内をキープすれば、すべて丸く収まるとの結論に至ったようだ。

 

【事件発覚からの経過】

◆21年12月 鈴鹿の元役員がツイッター上でクラブが負け試合の指示などの不正をしたという旨の主張を投稿。クラブは12月12日、不正行為は否定する一方、計7500万円の金銭要求を受けていると明かし、うち2500万円を支払っていたと発表した。

◆22年2月28日 Jリーグは理事会で、鈴鹿のJリーグ百年構想クラブ資格を解除条件付きで停止することを決めた。JFL規律委員会による調査の結果、懲罰の対象となりうる行為を確認。「適切ではないと考えられる金銭のやりとりが存在していたことなど、クラブのガバナンス体制に不備があると判断しうる複数の事情が認められた」。リーグ百年構想クラブ規定第7条第1項第1号に定める「Jリーグの目的に反する行為」と判断した。6月のJ3ライセンス申請期限までに、Jリーグ入会を認め得る状況に改善することが資格停止解除の前提となった。

◆4月5日 日本サッカー協会(JFA)規律委員会は、20年11月29日のソニー仙台戦に向けて、クラブ幹部による意図的な敗退行為の指示があったなどとする調査結果を発表。鈴鹿に対し500万円の罰金、元役員に2年間のサッカー関連の活動禁止などの処分を科した。オーナーは3カ月、社長も1カ月のサッカー関連活動禁止の処分を科した。また、4月26日のJリーグ理事会で停止中のJリーグ百年構想クラブ資格について協議するとした。

 

◆鈴鹿ポイントゲッターズ 2009年(平21)にFC鈴鹿ランポーレとして創設され、20年2月に現クラブ名に。ほぼアマチュア選手で構成され、午前中に仕事、午後から練習。本拠地は、三重交通Gスポーツの杜鈴鹿など。JFLに昇格した19年は12位、20年は5位、21年は4位。21年2月にJリーグ百年構想クラブに認定され、同年9月にJ3ライセンスも交付された。今季から「キング・カズ」こと三浦知良が加入。吉田雅一社長。