日本代表史上初のワールドカップ(W杯)8強入りを目指す森保ジャパンには、森保監督と26人の選手以外にも、頼れる「サムライ」たちがいる。さまざまな専門分野でこだわりの仕事でチーム、選手を支えるスタッフを「森保殿の25人」として、紹介する。
19日に行われたチームの記念撮影。森保監督と主将吉田の間にいたのは、ユニホームに着替えた西さんだった。代表のスタッフ陣が考えたサプライズ。選手たちを驚きの笑いで包むと、吉田からキャプテンマークを巻かれたシェフも、優しくほほえんでいた。
「年齢的にも代表の専属シェフは今回を最後にしようと思っています」。そう話していた西さんだが、関係者から全力で止められている。コックコート姿のサムライなくして、日本の躍進はない。
試合の3日前はジューシーなハンバーグ。2日前は、選手に人気のある銀ダラの西京焼き。そして大事な前日は、栄養豊富な国産うなぎ。04年に西さんがシェフとして同行するようになってから長らく続く、日本代表の“勝負の晩メシ”ルーティンだ。
「試合の後はカレーを出します。ご飯の上に野菜、お肉がいっぱい入ったカレーをかけて食べる。ご家族に連絡したり、疲れて寝ちゃったり、すぐに部屋に戻る方が多いので、一番いいのかなと」。選手への思いやりが、何よりのスパイスになっている。
イスラム圏のカタールは宗教上の理由で豚肉の持ち込みが禁止。日本製のしょうゆ、みりんもアルコールが入っており、持って行くことができなかった。ビタミンBが豊富な豚肉は、羊肉や魚などで代用。国産うなぎも日本から輸送した。調味料も現地で手配した。
食事の大切さを、選手たちも感じている。ベテラン長友は初めてのW杯、10年南アフリカ大会の食事会場では、いつも中村俊輔の後ろにいた。サラダを山盛り食べるレフティーの意識の高さを、自分の血肉に変えた。そんな長友は今、ビュッフェで若手が横に並ぶと「今日は豚肉取って、タマネギ取って。ビタミンB1の吸収には、タマネギが一番…」などと言いながら、若手の皿にも取り分けているという。食事会場でも脈々と受け継がれているものを、西さんはコックコート姿で静かに見守ってきた。
試合後の食事の準備があるから、スタジアムに行くことはできない。調理場で勝利を願って待つ。「いい成績を残せるように、少しでも力になれるように頑張りたいです」。ここにも、頼れるサムライがいる。【磯綾乃】
◆シェフ
西芳照 にし・よしてる(60=Dream24)
カタールで5度目のW杯。還暦祝いで選手からもらった「赤いコック服」を勝負服とし、おいし過ぎる料理で支える。カレーが大人気
◆コーチ
横内昭展 よこうち・あきのぶ(54=日本協会)
1学年下の森保監督と30年来の仲。広島の若手時代は2人で試合に出る未来を語り合った。時に意見をぶつけ合うが信頼と相性は抜群
◆コーチ
斉藤俊秀 さいとう・としひで(49=日本協会)
清水で活躍した元日本代表DF。98年W杯フランス大会メンバー。藤枝MYFCでは選手兼監督も経験。献身的に選手をサポートする
◆コーチ
上野優作 うえの・ゆうさく(49=日本協会)
主に攻撃を担当。FWでJ1通算27得点。現役時代の理想のストライカーは「天才」ファンバステン。今、求めるのは「より速い選手」
◆フィジカルコーチ
松本良一 まつもと・りょういち(48=日本協会)
ウオーミングアップなどを担当。疲労を蓄積させないよう、全体練習後に選手が取り組む自主トレを適度にストップするのにひと苦労
◆GKコーチ
下田崇 しもだ・たかし(46=日本協会)
現役時代は長く広島で活躍。元日本代表GK。96年アトランタ五輪代表でマイアミの奇跡の目撃者。かつては野球少年。実家は喫茶店
◆テクニカルスタッフ
寺門大輔 てらかど・だいすけ(48=日本協会)
4人いるテクニカルスタッフの1人。対戦相手のスカウティングが主な業務。宇都宮大-筑波大大学院-東京Vを経て、日本協会入り
◆テクニカルスタッフ
中下征樹 なかした・まさき(36=日本協会)
1回のミーティング資料作成には数十時間をかける。呉三津田高-筑波大-筑波大大学院。広島でも同職などで当時の森保監督と共闘
◆テクニカルスタッフ
酒井清考 さかい・きよたか(35=日本協会)
清水商-静岡大から筑波大大学院。同院でGKコーチを務め、現職の存在を知る。14年に日本協会へ。アンダー世代を経てA代表入り
◆テクニカルスタッフ
佐藤孝大 さとう・たかひろ(30=日本協会)
今回担当4人の中では、寺門とともに16強入りしたW杯ロシア大会も経験した。世代別代表チームでも同職。水戸桜ノ牧高-筑波大
◆ドクター
加藤晴康 かとう・はるやす(59=立教大)
95年のU-16日本代表から日本協会に関わっている。森保ジャパンのチームドクターと整形外科の外来診療、教授と“三足のわらじ”
◆ドクター
土肥美智子 どひ・みちこ(57=日本協会)
夫は田嶋幸三会長で、日本協会のファーストレディー。千葉大医学部卒。医学博士で東京五輪の「新型コロナウイルス対策責任者」
◆アスレチックトレーナー
前田弘 まえだ・ひろし(57=日本協会)
恩師の言葉「チリひとつ見つけられないやつが、いい治療はできない」を胸にピカピカな空間でマッサージする。学生時代は野球少年
◆アスレチックトレーナー
菊島良介 きくしま・りょうすけ(44=日本協会)
外傷予防、コンディショニング管理を主に担当。やりがい感じる瞬間は試合前の君が代。東京電力マリーゼでも経験積む。W杯3度目
◆アスレチックトレーナー
尾垣孝博 おがき・たかひろ(35=東京スポーツ・レクリエーション専門学校)
過去に東京に在籍し、全カテゴリーをサポートし経験を積んだ。選手のトレーニング後の補食には、プロテインではなく干し芋を推奨
◆アスレチックトレーナー
細井聡 ほそい・さとし(38=東京メディカル・スポーツ専門学校)
磐田の下部組織でプレー。現職で磐田の育成年代、トップチームを支えて手腕を発揮。W杯出場決定時はヒーロー三笘から感謝された
◆フィジオセラピスト
中條智志 なかじょう・さとし(39=日本協会)
長野・須坂市生まれ。理学療法士、トレーナーとして故障がちの選手を、よりよい状態でピッチに送り出す重責担う。川崎Fにも在籍
◆総務
津村尚樹 つむら・なおき(44=日本協会)
日本協会が新設した欧州オフィスのダイレクター。ドイツ在住で欧州組の心のよりどころ。勝負どころでは、自らバリカンで丸刈りに
◆総務
本間一憲 ほんま・かずのり(43=日本協会)
国内組の選手サポートがメイン。千葉でオシム監督のもとチームマネジャーを務め「常に予測しながら、仕事ができるようになった」
◆総務
杉山友朗 すぎやま・ともあき(35=日本協会)
チームの何でも屋。選手、スタッフの要望を聞きさまざまな交渉、手配、調整といった幅広い業務で支える。癒やし系愛されキャラ
◆キットマネジャー
山根威信 やまね・たけのぶ(47=アディダスジャパン)
今回が5大会連続のW杯となる。キットスタッフの麻生氏は高校の同級生。容姿が似ており、スタッフからも間違えられることが多い
◆キットスタッフ
麻生英雄 あそう・ひでお(47=BOTTOM UP)
日本で1人だけ、98年W杯フランス大会から7大会連続の大舞台。ユニホームなど用具担当。合宿地でコインランドリーを探す癖あり
◆メディアオフィサー
多田寛 ただ・ひろし(46=日本協会)
筑波大蹴球部で左SB。どんな時も動じないビッグな広報。東京Vでラモス監督、日本代表でハリルホジッチ監督を担当し鍛えられた
◆メディアオフィサー
種蔵里美 たねくら・さとみ(43=日本協会)
語学堪能でいつも冷静な日本協会の頭脳。11年女子W杯ドイツ大会を制したなでしこも広報として支えた。前回大会はFIFAで活躍
◆広報
知元明洋 ちもと・あきひろ(38=日本協会)
最終予選サウジ戦後、差別発言に激高した吉田を体を張って守る。けがでW杯無念の欠場。現地のメディアセンター建設に大きな貢献