サッカー日本代表は、決勝トーナメント進出をかけ、12月1日午後10時(日本時間同2日午前4時)キックオフのスペイン戦に臨む。決戦に挑む森保一監督(54)は、かねて巨人原辰徳監督(64)との対談で、「日本代表を率いる覚悟」を語り合った。

◇  ◇  ◇  

森保監督に虚をつかれたことがある。

「おすすめ、教えてください」

20年5月、お互いの自宅をつないでのリモートインタビューの終盤、ふいに質問された。「本がお好きと聞いたので。何がおすすめですか?」。序盤、セッティングしている私の画面に本棚が映り込んだのを見逃さなかった。

焦ってすぐに言葉が出ず、本棚にカメラを向けて森保監督の関心の行方に答えを預けた。「あ、それ」。指揮官の目に留まったのは、日本代表担当の前に私が担当した巨人原辰徳監督の著書だった。「読みます。指導者の方々とか、今後に生かせることはサッカーだけじゃないと思いますので。考え方とか」。リップサービスだと思っていた。

数週間後、再び驚かされた。

「勉強になりました。原監督の『うまい選手じゃなく、強い選手を』という考え。すごく共感させていただきました」

話題に挙がった本を読破していた。森保監督は何事にも「ガチ」なのだと思い知った。

今年7月、復帰した巨人担当として両指揮官の対談に同席する機会に恵まれた。話題は尽きず、対談は予定時間を大幅に過ぎた。09年WBCで世界一をつかんだ原監督の言葉に、森保監督の言葉も熱を帯びていった。特に盛り上がったのが「日本代表を率いる覚悟」だった。

原監督 確かに結果は勝負の世界として勝たないといけないという人もいるが、監督というのは勝つ、負ける、というもの以前に、すごいものと戦っているんだよ。どんな結果が出ようが、自分の中で胸を張れる、あるいは、どこかに誇れる、そういうものが、(言葉で)言うことではなく心にないと、なかなか戦えないと思いますよ。

森保監督 そうですね。後悔しない、終わった時に、結果がどうであれ、後悔しないプロセスを踏む、まさにそうだなと思って。勝利を目指すのは、どの親善試合でも公式戦でも変わりません。もちろんいろんな期待に応えないといけないというところはありますが、結果がどうであれ、チームの勝利のためにと、日本サッカーの発展を考えてチーム作りをして、試合を終えた時に自分に後悔がないように、選手選考から戦いをやっていこうと思っていたのを思い出しました。野球にも監督がいて、コーチがいて、スタッフがいて、というチーム作りをしていると思いますが、みんなが1つのチームになって、終わった時に、勝って喜ぶのが一番ですが、そうでなかった時にも戦友だったと思えるように、振り返れるように、一致団結して戦いたいと日ごろから思っています。

真剣な表情で語る姿と言葉に、かねて「立ち姿がいいね。こびるところがない」と注目していた原監督も「1つの単語だけでも通じるものがある」と目尻を下げていた。

「常に成長していけるように」。森保監督がよく口にする言葉だ。。視野は広く、周囲に何を言われようが信頼と結束を深めながら、後悔なきプロセスを踏み進む。揺らぐことなく、愚直に貫いてきた。だからこそ、戦いが続く限りは達成感に浸ることも、厳しい現実を引きずることもないだろう。後悔なく「最強布陣」でスペイン戦へ。成長=1次リーグ突破を求め、静かに思考を巡らせている姿が目に浮かぶ。【19~20年日本代表担当=浜本卓也】