日本唯一2度のW杯指揮で、出場と自国外16強を初めて経験したサッカー元日本代表監督、岡田武史氏(66=日本協会副会長、J3今治会長)が「組織」から抜きんでる「個」の台頭に期待した。

22年カタール大会「日刊スポーツ特別評論家」として、PK戦の末に敗れた日本4度目の決勝トーナメント1回戦まで全体総括。進歩は認めつつ、日本の特長である献身性の枠に収めない育成・起用、選手時代に海外を経験した次代の指導者が出てくる必要性を4年後への提言とした。【取材・構成=木下淳】

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4度目の挑戦で、いよいよ8強が許される経験を積んできたと思ったが、まだだった。クロアチアは3位と準優勝を知り、特に前回ロシアでは3試合連続で延長戦(うちPK戦2回)を制して決勝進出。今回も延長前半、まだ動けていたモドリッチとコバチッチを同時に下げた。「いい攻撃で勝ち切る」より「PK戦でいい」感覚だったと思う。

PKは「運」とか「結果は仕方ない」とか言われるが、自分はPKだろうが90分の試合だろうが、勝つために最高の準備をし、勝つためにベストを尽くすべきと思っている。自チームでキッカーを任されているのは鎌田ぐらいか、蹴り手の経験不足も露呈した形だ。

しかし、越えられそうで届かない壁だ。自国の利があった02年、どこか1次リーグ(L)突破に満足した10年、ベルギー戦は惜しかったが1次Lは勝ち点4だった18年。今回はドイツとスペインに勝って首位通過しながら満足していなかった。最も期待が大きかっただけに、考えさせられる。

一夜明けても何が必要だったのか自問し、まとまっていない。優勝経験国を連破して「成長していない」という人間はいないだろうが、上へ行けなかった意味はあるはず。ふと思い出した。南アフリカの後にヤット(遠藤保仁)から言われた言葉だ。「犠牲心のチームでしたね」。世界でも評価された組織力、一体感だったと思っているが、森保もそうだった。同じ日本人監督として勝つためにそうするべきだと信じている。

その中で、おぼろげながら次世代のチーム像に思いをはせてみた。日本は「個で勝てないから組織で勝つ」としてきたが「そんなこと言ってたら、いつまでも勝てない」と選手がどんどん欧州に出て個を高めてきた。プラス日本の特長である組織、以心伝心の一体感でドイツとスペインに勝てたが、森保の采配が当たった側面もある。もう1段上にいくため、やはり個の突き抜けが必要だと感じた。

世界に通用する才能の持ち主でも「フォア・ザ・チーム」を貫けない選手は日本では使いづらい。自分にも、才能を認めながら外した選手はいる。今回も同じように感じ、水が漏れてしまった場面もある。だから組織優先…のままでいいのだろうか。ブラジルはネイマールが守備するし、時にサボっても周りがその個を生かす。モドリッチやフランスの「戦術エムバペ」を見れば明らかだが、際立つ個は強烈。日本も、多少は献身性が足りなくても、組織の枠を超えた選手が出てくる瞬間を待つ我慢が必要なのかもしれない。

日本人だから、ひた向きに頑張れる、まとまれる。ドーハでも海外の友人から高く評価されたが、一方で才能ある選手がチャンスを得られない面があるかもしれない。日本の特長が個の良さを消してしまいはしないか。チームに貢献しながらも殻を破れる選手の養成か、天性を尊重してもチームとしては負けない組織を作るか。いずれにしても、今大会で日本の層の厚さは示せた。レンガで言えば横に広がった。次は高く積み上げていくことが大切だ。ここから1ランク上の選手が出てこないといけない。

その中で三笘は世界に通用する個だ。研究されながら、中に切り込んで放ったミドルには驚かされた。間違いなく有力候補。全4試合で先発起用された鎌田もそうだし、個人初のW杯で悔しく痛い目に遭った選手たちの台頭に期待したい。

さらに言えば、海外プレー経験がある選手が指導者として戻る時が、次の大きな転換期かもしれない。俺も森保も選手時代は海外経験がない。日本人の良さ、勇敢さを生かすチームは構築できるが、外国人感覚を持つ指導者が出てくれば、もっと進歩する可能性がある。例えば、前主将の長谷部はドイツで指導者の勉強も並行している。が、まだ先の話。森保と長谷部の間の世代で海外経験ある指導者が出てこないと。これも課題の1つと思っている。

森保には感謝したい。五輪監督も含めれば5年間「クレージージョブ」に耐えてW杯で結果を出した。すごいことだ。彼のおかげで日本人指導者のステータスが世界の中で上がった。よく頑張った。サッカーを知らない人がサッカーを見る機会が減って懸念していた中、W杯という好機でドイツとスペインに勝ってくれたことは大きい。もし散々な成績だったら日本サッカー界の未来は大変なことになっていた。森保に特別ボーナス出したいくらいだ。

ただ、初のベスト8には到達できなかった。事実は受け止める。しかし悲観はしていないよ。以前は「無理」だった大国との試合に「やれる」感覚で勝てたんだ。確実に進歩している。何度も言うが、世界でここまで急激に強くなった国はない。また4年は長いが、再出発してほしい。新たな景色を目指して。(元日本代表監督=98年フランス大会、10年南アフリカ大会)