23日に国立競技場で行われるセイコー・ゴールデングランプリの注目選手を特集する「国立を駆ける」の第2回は、男子400メートル障害の安部孝駿(28=ヤマダ電機)。昨秋の世界選手権(ドーハ)準決勝で、全体10番目のタイムとなる48秒97。上位8人のファイナルに届かなかった差を詰めるべく、風船を膨らます体幹トレーニングを取り入れるなど、課題である後半の失速を克服する取り組みをしている。

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トレーニングになると、安部は風船を手にする。口にくわえ、寝っ転がったまま、空気を送り込む。意識は腹圧。普通に息を吹けば、おなかはへこむが、そうならないように保ったまま「しっかり腹から空気を出す」イメージ。体幹に負荷をかけ続けながら、風船を大きくしていく。

狙いは「省エネ」の走りを実現させるため。もともと下半身が強い半面、上半身が弱かった。足のパワーに頼ったフォームは、後半の失速の原因となっていた。世界選手権の準決勝も、残り2台のハードルは、1台あたり理想より1歩多い15歩を費やした。上半身の力をうまく出す方法を体になじませ「楽にスピードを出す」走りを追求している。もともとストライドは、身長192センチの体格を生かして大きい。それを終盤も維持し、7台目以降も1台あたり14歩で飛び越えられれば、決勝進出は一気に現実味を帯びる。他にも坂道や、約15キロのソリを引き70メートルのダッシュをする練習なども増やし、後半の課題克服を目指している。

世界選手権準決勝以来のレースでは、自己記録48秒68の更新を見据える。「練習で取り組んできた中盤から後半の走りは練習ではすごくいい感じにできている。試合勘の部分はちょっとやってみないと分からないが、仕上がり、体の調子はいい」と意気込む。すでに東京オリンピック(五輪)の参加標準記録は突破済み。「スタジアムの雰囲気を知り、来年のオリンピックをイメージして走りたい」。舞台は国立。その経験は、確実に1年後へつながる。【上田悠太】

◆安部孝駿(あべ・たかとし)1991年(平3)11月12日、岡山市生まれ。玉野光南高から本格的に障害に専念し、中京大を卒業。11、13、17、19年と世界選手権には4度出場。19年春にデサントからヤマダ電機に移籍。自己記録は18年5月の静岡国際で出した48秒68で日本歴代10位。192センチ、81キロ。