オリンピック(五輪)が終わっても、スプリント界の熱を冷めさせない。陸上男子100メートルで9秒98の自己ベストを持つ桐生祥秀(25=日本生命)が、28日のナイトゲームズ・イン福井に出場する。前日会見で「この7、8年は東京五輪のブームだった。これからは東京五輪という話題なく盛り上げないといけない」と力を込めた。

まずは結果を出し続けることが重要になる。これが今季最終戦。スタンドにも人が入る。「観客の人が盛り上がるようなレースをするのが仕事。より大きな拍手が生まれるレースをしたいと思います」。リラックスした表情の中で、秘めている強い思いがにじんだ。

5月下旬に右アキレス腱(けん)を痛め、東京五輪は100メートルでの出場を逃した。全てを懸けた400メートルリレーもチームはバトンミスで決勝を途中棄権。自身は金メダルの期待を背負った決勝も、走ることなく幕を閉じた。その不完全燃焼に終わった舞台は世界の進化を浮き彫りにした。100メートル準決勝では中国の蘇炳添(31)が9秒83のアジア新を出すなど準決勝突破ラインは史上最高「9秒90」だった。「今までは9秒95を準決勝で出せば残ると話していた。だが、向かい風でも9秒台、追い風ならば9秒8台を出さないと決勝には立てない。今までのトレーニングを1度、0にして変えていかないと勝負できない。10秒0台をコンスタントに出すのでは予選ライン」と意識は高まった。再出発の五輪後、初レースとなる。

ポスト東京五輪でも陸上を盛り上げる決意は、競技の結果以外でも形にする。予選の約2時間前には「スプリント 50 チャレンジ」と銘打ち、選ばれた小学生6人と50メートルで本気の対決を行う。現役トップ選手のスピードを若い世代に直に体験してもらうことに意義を感じている。「違うやり方でも盛り上げる」。これも五輪後も陸上界の盛り上がりを続けるための行動だ。

会場の福井県営陸上競技場には、9・98スタジアムの別名が付く。4年前に自身が日本人初の9秒台を出した「思い出の地」でもある。「9秒98とタイムが競技場の名前になっているのはここしかないと思う。だが、この記録を越えないといけないと思う」。他競技の活躍に押され、五輪後は少し話題性が薄れていた陸上界を、もう1度、盛り上げていく。【上田悠太】