星岳(ほし・がく、23=コニカミノルタ)が、2時間7分31秒の初マラソン日本最高記録で優勝した。

星岳が優勝、川内らMGC出場権を獲得/大阪・びわ湖毎日マラソン統合大会詳細>>

山下一貴(24)、浦野雄平(24)の3人で競り合う流れから抜け出し、好記録で第1回の統合大会を制した。4位まで2時間8分を切るハイレベルな戦いで、上位6選手と、対象2大会で条件をクリアした9位の川内優輝(34)を含む7選手が新たに24年パリ五輪代表選考会「グランドチャンピオンシップ(MGC)」の出場権を得た。

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24年パリへ、新風を吹き込む快走だった。駆け引きが激しいレース展開。初マラソンの星はただ引っ張られてレースを進めた。「どこまでいけるか、未知数だった。落ち着いて余計なことはせず、37キロ過ぎに仕掛けたというより先頭に出て徐々に離せればと」。

35キロ付近から山下、浦野と3人の争い。先輩2人を見ながら、星は冷静にレース展開を読んだ。「(マラソンを)経験していないからこそ、自分のペースで進められた。チャレンジャーだから、ついていけるところまでいって勝負できればと考えていた」。初々しさの裏にしたたかさがのぞく。先頭を争う2人の状況をながめながら、一気に勝負を仕掛けて突き放した。

日本陸連の瀬古利彦副会長(65)が「折り返しが複数あり、きつい30キロ過ぎに坂がある。正直、記録は期待していなかった」という難コースを攻め抜いた。残り500メートルで勝利を確信したガッツポーズ、最後はサングラスを外すポーズを決めた。「勝負できればと思っていたが、優勝までは考えていなかった。正直、驚きがあります」と言った。

「マラソンで世界」。入社1年目。駅伝の練習が軸、同時に単独でマラソン練習を積んだ。指導する野口拓也コーチ(33)は星の強みを「メンタル面の強さ。何があっても動じない。こうと決めたら、そこに突き進む。こだわりと信念を持っている」という。特別なマラソン練習は初体験の40キロ走を2本。「人生初、非常にきつい練習でした」。目標があるから耐えた。

仙台市出身。11年、小学校の卒業式目前で東日本大震災に被災した。星の家もライフラインを断たれた。「一瞬で何もかも失う」現実を知った。その実体験が根底にあり、星は走る。

目標は28年ロサンゼルス五輪でマラソン日本代表という。「30歳のピークで迎えると思っている。もちろん、それまでにチャンスがあれば挑みたいと思っている」。今夏の世界選手権、24年パリ五輪に向けても有力選手に躍り出た。「パリを目指すにも時間はまだある。どう目指すか、形を考えていきたい」。自身を冷静に見つめる新“星”が、なにわ路から出現した。【実藤健一】

◆世界選手権代表選考 今年7月の世界選手権米オレゴン大会に向けて、今大会、昨年12月の福岡国際、2月6日別府大分、3月6日東京の4レースが選考対象となっている。日本陸連が定めた派遣設定記録2時間7分53秒をクリアした日本人2位以内が代表候補になる。現時点で、候補選手は別府大分の西山雄介(2時間7分47秒)と星、山下の3人となった。

◆パリ五輪への道 日本陸連は、23年秋に「MGC」を開催して、男女ともに24年パリ五輪代表選考を行う。MGCに出場するためには、指定大会での条件クリアが必要。男子は、指定大会で2時間10分以内での日本人1~3位や、対象レース2本の平均タイムが2時間10分以内などがある。今年の世界選手権8位以内、中国・杭州アジア大会3位以内でも、MGC出場権を獲得できる。

<星岳(ほし・がく)アラカルト>

◆生まれ・体格 1998年(平10)9月17日、宮城県仙台市生まれ。

◆サイズ 身長163センチ、体重49キロ。

◆野球少年 小学5年から野球を始め、主に三塁手だった。中学時に駅伝競走に“借り出され”長距離走の素質を認められた。宮城・明成高に進学して、本格的に陸上へ。

◆箱根が転機 帝京大2年時に初めて箱根駅伝に出場して、10区で区間賞。4年時には主将を務めた。

◆野球への未練 高校進学時は野球を続けるか、陸上か、迷いに迷ったという。今も野球は大好きで、米大リーグ中継はかかさず見る。日本のプロ野球はもちろん、楽天の大ファン。

◆好きな食べ物 いくら、うに。

◆嫌いな食べ物 マヨネーズ

◆自己記録 5000メートル14分4秒23、1万メートル28分14秒12、ハーフマラソン1時間2分20秒。

 

◆大阪・びわ湖毎日マラソン統合大会 2011年に始まった市民参加型の大阪と、1946年から滋賀県でトップ選手が競ってきたびわ湖毎日が、今年から統合した。コースは大阪。ただ今大会はコロナ禍で一般ランナー部門はなく、エリート部門のみとなった。星の記録は、大阪のコースとして大会新記録だった。