【ブダペスト(ハンガリー)=藤塚大輔】5度目の出場となった飯塚翔太(ミズノ)が、レース直前にアクシデントに襲われながらも、準決勝で粘りの走りをみせた。

練習用のサブトラックから試合会場へ向かうカートに乗車中に、別のカートと衝突。当初予定されていた1組目から急きょ3組目へ振り替えとなった中、20秒54(向かい風0・1メートル)の7着でゴールした。

23日の予選で4年ぶりの20秒2台となる20秒27をマークした32歳。「ベストを尽くす」を信条にする男は、まだまだ進化を遂げていく。

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準決勝直前。飯塚はサブトラックからの移動でカートへ乗った。その道中だった。「ボン!」。別のカートとの接触事故に巻き込まれた。

出番が1組目から最終3組目へと急きょ変わるも、動揺はなかった。

「調子は良い。かみ合ってきている」

前向きにスタートラインに立った。同組8人の中で最年長だったが、前半は年下の海外勢と渡り合う走りを披露。7着にも「ベストレースに近い。出し切れた」と胸を張った。

13年前の苦い記憶が原点にある。中央大(中大)1年時に20歳以下の世界ジュニア選手権200メートルで金メダルに輝いた。個人種目では、シニアも含めて日本短距離界初の快挙。ただ、周囲からの祝福はプレッシャーにもなった。

世界一に輝いてから3カ月後。今度は20歳以下の日本人選手によるジュニアオリンピックへ出場した。

「自分は世界一なのだから、日本では勝って当然」と気負った。不調と気付きながらも「よく見せたい」との思いが勝り、その日だけ試合前アップのメニューを変えた。

結果は2位。完璧を追い求め、1学年下の山縣亮太に敗れた。

「自分じゃない自分みたい」とふがいなさが募った。

その敗戦から「今日のベストを尽くす」という教訓を得た。

「人は完璧な状態なんてほとんどない」

今季は6月の日本選手権で左太腿内転筋を痛めたが、7月上旬からは5年ぶりに欧州遠征を敢行。世界ランキングでの代表入りも危ぶまれたが、飯塚は出国前の羽田空港でわくわくした表情を浮かべていた。

「こうやってチャレンジできるのって限られてもいると思うので。チャンスがあるのはありがたいんです」

そしてこの日も、口癖のように繰り返していた。

「スタートラインに立つと、走る時のポイントとかいろいろ考えてしまうので。それよりも、シンプルにベストを尽くして頑張るのが大事かなって思います」

今大会は追加招集でつかんだ5度目の世界舞台。

準決勝敗退にも「もう1回チャレンジしたい気持ちが燃えた」とパリ五輪を見据えていた。

400メートル、1600メートルのリレーには出走しない可能性もある中「何が起きてもいいように」と、後輩たちと一緒に準備し続ける。

32歳の飯塚は今日も、その日のベストを尽くしている。